死亡事故が起きた横浜市鶴見区の踏切死亡事故が起きた横浜市鶴見区の踏切。かなり危険な踏切のため、注意喚起する看板が多く設置されている(2021年8月、筆者撮影)

 神奈川県横浜市鶴見区内の“開かずの踏切”で歩行者が列車にはねられて死亡する事故が発生した。近年、踏切事故は減少傾向にあるが、それでも線路内で人や車が走行中の列車と衝突する事故は後を絶たない。これまで国や地方自治体は踏切事故をなくすためにどんな対策を取ってきたのか──。フリーランスライターの小川裕夫氏が解説する。(JBpress編集部)

国交省も把握し切れない「勝手踏切」の数

 2024年9月29日、神奈川県横浜市鶴見区内で、踏切を渡っている途中の歩行者が列車にはねられて死亡する事故が発生した。事故が発生した踏切は、JR線の東海道本線と京浜東北線の線路を6本またぎ、京急電鉄の線路とも隣接する。京浜東北線と東海道本線の線路が少し離れているため途中に待機スペースが設けられているという特殊な構造の踏切だった。

死亡事故が起きた横浜市鶴見区の踏切の待機スペースには、4カ国語の警告看板が設置されている死亡事故が起きた横浜市鶴見区の踏切の待機スペースには、4カ国語の警告看板が設置されている(2021年8月、筆者撮影)

 鉄道事故の8割から9割は、踏切および踏切付近で起きていると言われる。ひとたび事故が起これば列車は運行できなくなり、それは社会を著しく混乱させる。

 内閣府の統計によると、鉄道事故は2001年度に908件、2011年に850件、2021年に534件と減少傾向にある。事故の減少に伴って死者数も減少しているが、それでも年間94人が亡くなっている。

 実は道路交通法では原則的に踏切を新設できないと定めているので、今後踏切は減る一方だが、全国にはいまだに約3万3000の踏切が存在している。

 この中には1日に数本の列車しか通過しない踏切も含まれているが、他方で国土交通省が正式に踏切と認めていない私設踏切、すなわち「勝手踏切」は含まれていない。勝手踏切とは地域住民などが慣例的に通行している非正規の踏切のことである。

 国交省は勝手踏切を踏切と認めていないため正確な数を把握し切れていないとしているが、2021年に立憲民主党の津村啓介議員が、国交省が算出したとされる全国データを用いて国会で質問をしている。それによると勝手踏切は沖縄県を除く46都道府県に存在し、2021年1月時点で1万7066もあるという。

 勝手踏切が山奥など人の少ない場所に偏在していることは言うまでもないが、例えば江ノ電(江ノ島電鉄)沿線の住宅密集地にも多数あり、頻繁に問題提起されている。国交省が把握している以上の勝手踏切があることは想像に難くない。