自動車や歩行者に「踏切の存在」を認識させる取り組み

 立体交差化ができないからといって、行政や鉄道事業者は事故を減らす取り組みを怠るわけにもいかない。工夫を凝らして踏切事故を防止に努めているが、何よりも重要なのが道路側の自動車・歩行者に踏切の存在を認識させることである。

 例えば、高い位置に警報器が取り付けられたオーバーハング型と呼ばれるタイプの踏切を整備する方法がある。

 トラックのような車高のある自動車が前方を走っている場合、車高の低い自家用車のドライバーは踏切に気づきにくくなる。オーバーハング型の踏切ならば遠くからでも視認でき、踏切事故の防止に効果があると考えられている。

遠くからでも認識できるような工夫として、警報灯を上に配置したオーバーハング型の踏切が増えている遠くからでも認識できるような工夫として、警報灯を上に配置したオーバーハング型の踏切が増えている(2018年8月、筆者撮影)

 視認性を高めるという点では、遮断かん(黄色と黒に塗られた遮断機のさお)を太くした遮断機の導入も増えている。警報灯も改良を重ね、前方だけではなく横からも見やすい全方向・全方位タイプが普及している。

 歩行者への対策では、車道部分と歩道部分に色をつけて区別し動線を可視化する、音声を流して注意喚起する、警報灯の照度を変えて点灯を見やすくするなど、多岐にわたる工夫を凝らしている。以前は踏切での自殺者対策として、心が落ち着くとされる青い光を踏切前で照らすという試みもされていた。

 近年は、身体の不自由な歩行者の安全確保として踏切内への点字ブロック設置といった施策も始まっている。

 踏切は誰もが一目で認識できるようにとの安全上の配慮から、奇抜なデザインやカラーリングへ切り替えることはできない。だが、さまざまな制約の中でも、踏切メーカーは常に安全性を高めようと試行錯誤している。

 そうした努力を積み重ねながらも、鉄道事業者・自治体、そして鉄道メーカーは踏切事故ゼロを目指して奮闘を続けている。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。