年末調整が廃止されたらどうなる?

 総裁選に立候補している河野氏の言うように、仮に年末調整が廃止されたらどうなるでしょうか。

 現在は勤め先の事業所にやってもらっている1年間の税額計算と納税手続きをすべて自分自身で行うことになります。所得のある国民は全員、確定申告をしなければならなくなるわけです。

 河野氏はこの点をとらえ、「国民全員が確定申告をすることで、税と社会保険料の負担額を認識してもらい、その使いみちにも厳しい目を向けてもらえることも期待されます」としています。

 もちろん、いいことばかりとは限りません。朝日新聞の報道によれば、税務職員は「(労働者が一斉に確定申告に来れば)相当量の事務が加わる」と不安を隠さず、税務調査や徴収業務にも影響が出かねないと指摘。「悪質な納税者への対応も縮小せざるを得ず、適正公平な課税の実現が難しくなる」という職員の声が紹介されました。

 納税者として税の使い道に厳しい目を向けるのは当然としても、時々の政治・社会情勢によっては確定申告の現場が混乱することも予想されます。

 実際、森友学園問題で財務省が大揺れだった2018年の確定申告では、税務署前でのデモや申告会場で職員に抗議する納税者が続出。その様子が大きく報道され、社会問題となったのです。森友学園で矢面に立たされていた財務省幹部は当時国税庁長官になっており、国会でも「徴税に影響がある」と政府側が答弁したほどです。

 今回の年末調整廃止の公約は今後、どのような議論に発展していくのか、現在のところは明確に見通せませんが、家計とダイレクトに結びつく課題だけに総裁選での議論の行方が大いに気になるところです。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。