なぜ政治家は裏金を欲しがるのか?

上脇:前述のとおり、自民党本部は幹事長を中心に政治家に寄附をしていますが、自民党は「これは寄附ではない」と言い始めました。岸田首相は国会で「このカネは使い道が決まっている」「政策活動のために使っている」「だから寄附ではない」と説明しました。でも、各支部には組織活動費名目で寄附がなされているのですから、これは寄附以外の何物でもありません。

 支出の目的が明らかだから「寄附ではない」という理屈でザル法にしている。その結果、通常国会で先日法律が改正されて「政治資金規正法第21条の2」の「第2項」は削除されたのに、政党本部から議員への寄附は今までと変わりなく続けられています。

 しかも、寄附を受け取った国会議員は10年後に領収書を公開するという妙なルールが加えられました。法律を好き勝手に解釈し、自分たちの都合のいいように捻じ曲げているとしか思えません。これまでと同じように、今後も使途不明金は続くでしょう。

 私は領収書の添付さえないだろうと予想しています。「領収書の発行を求めたけれど、発行してくれなかった」という言い訳、つまり政策活動費を使った相手のせいにする可能性があるということです。

 仮に、カネを渡した側と受け取った側がその事実を認めたとしても、10年後にそんな話をされて誰が気にするでしょう。買収の時効は3年。政治資金規正法の違法な寄附の時効も3年。虚偽記入の時効は5年です。10年後に公表されても意味ありません。

 10年も経ったら、その政治家や会計責任者が、政治の世界にいるかどうかも分からない。政党そのものがなくなっているかもしれません。

──政治資金規正法を厳格にすると、政治家はやっていけなくなると思いますか?

上脇:全くそう思いません。たとえば自民党は今、バブル経済の頃よりも政治資金を持っています。1980年代の後半に自民党本部が得ていた政治資金は200億円を少し超えるくらいでした。今は、240億円から250億円くらい持っています。

 なぜ増えたのかというと、政党交付金があるからです。表向きの企業献金は依然と比べて減少しました。かつて120億円から130億円はあったと言われている企業献金は、現在わずか20億円から30億円ほどになっています。今の自民党の7割ほどの政治資金は、政党交付金です。

 政党交付金という税金のおかげで、自民党本部はバブル経済の時よりも資金を持つようになりました。では、なぜ政治資金がたくさんあるのに裏金を作るのか。裏金を作る政治家たちはカネが欲しくて裏金を作ったのではなく、裏金が欲しくて裏金を作ったのです。

 ここにはいくつか理由があります。自民党の場合、たとえば総裁選は各派閥や議員にとって死活問題です。皆誰が総裁になるか見極めて勝ち馬に乗りたい。それが大臣や役員のポストにつながっていく。こういう時に使われるのが裏金です。

 総裁選は公職を選ぶ選挙ではなく、自民党内の総裁を決める選挙ですから公職選挙法の適用を受けません。だから買収し放題。とはいえ「この人にカネを渡した」と収支報告書に書くと違法になる。だから、収支報告書に記載しなくていいカネが欲しい。最初からどこにも記載のない裏金が一番便利というわけです。

※後編「政治団体を数多く持つ議員ほどやばいカネの使い方をしている」(9月12日公開予定)に続く

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。