IFF/SIFの問題と他の手段

 SIF用機器は、ロシア製民間機にも搭載されているものですから、その仕様についてロシアも熟知しています。

 巡航ミサイルに搭載されている可能性は低いですが、ドローンには偽信号を発するSIFが搭載されている可能性もありますし、SIF信号用の妨害装置が搭載されている可能性もあります。

 友軍相撃が起こった当日は大規模な攻撃が行われていたため、ロシアが地上や高高度からSIF信号に対して電子妨害を行っていた可能性もあるでしょう。

 それに、軍用のIFFにも同じ問題が言えますが、警戒レーダーなどの1次レーダーで把握される位置情報と、IFF/SIFで使用される2次レーダーで把握される識別情報を適切に照合することには困難が伴います。

 ここでは詳細を書きませんが、妨害がない状態であっても、混乱した空域では、IFF/SIFの応答状況にはかなりのエラーが起こり得るのです。

 一例としては、低空で巡航ミサイルを追っていたF-16の上空に、別の航空機が存在した場合、両方の機体からSIFの応答信号が帰ってくるため、偽信号が帰って来たように見える場合がありえます。

 識別手段としてSIFしか使える手段がない上に、妨害の可能性もあるのですから、友軍相撃を防ぐために、ウクライナ軍は特段の配慮をしなければなりませんでした。

 識別用の機器以外で、友軍相撃を防ぐために最も有効なのは警戒管制組織です。自衛隊で1969年から使用されていたBADGE、その後継で現在も使用されているJADGEシステムなどがこれに当たります。

 友軍機が離陸してから着陸するまで、その位置を管理し、その情報を地対空ミサイル部隊などに配布していれば、友軍機を攻撃してしまう可能性はありません。ですが、ウクライナではこの警戒管制組織も不十分だったと思われます。2022年にロシアが全面侵攻を始めた直後に警戒管制レーダーの多数が破壊され、その後は地対空ミサイルなどが優先されたため、警戒管制レーダー自体が不足しています。

 そもそも、多くの警戒管制レーダーを保有した上、そのデータを一元的に管理できる警戒管制組織を構築している国は、世界中を見ても多くありません。