ウクライナは、大量に撃ち込まれている巡航ミサイルやドローンの情報を、郷土防衛隊の迎撃部隊にも配布するため、かなり応急的な警戒管制組織を作っているようですが、精度や信頼性が十分なものだったとは到底考えられません。

最後の手段、空域分離

 IFF/SIFだけでなく、警戒管制組織も不十分な状況で、友軍相撃を防止する最も有効な手段は空域分離です。要撃機であるF-16とパトリオットなどの地対空ミサイル部隊が戦闘を行う空域を分けるということです。

 基本的には、地対空ミサイルの配備地周辺空域が航空機にとっては飛行禁止、あるいは制限空域となり、地対空ミサイルが防空戦闘を行います。そして、その他の空域が航空機が交戦する空域となります。

 ただ、この空域分離にも問題があります。状況に応じて航空機も地対空ミサイルも交戦できた方が効率が良いのは当然ですが、それだけではないのです。

 F-16などの航空機が使用する基地は、最も防衛すべき場所であるため、基地周辺には地対空ミサイルが配置されることが常道です。

 基地周辺は、地対空ミサイルが迎撃戦闘を行うべき場所にする必要がありますが、その一方で友軍機の発進、帰投も行わなければなりません。そのため、空域分離を行う場合は、基地上空からいくつかの方向に対して、「エアコリドー」(空中回廊)と呼ばれるものを設定します。このコリドー内を飛行する飛行物体に対しては地対空ミサイルの交戦を禁じることで、友軍相撃を防止します。

 脅威度や空港の状況に応じて、このコリドーは、本数が少なかったり、折れ曲がっているケースもあります。それを肉眼で見ることのできないパイロットには敬遠されがちですが、敵味方識別装置としてSIF(モード3)しか使用できず、警戒管制組織も不十分なウクライナでは、この空域分離が必要だった可能性が高いのではないかと思われます。