ポリオ蔓延の危機、さらに深刻な事態にも

 ガザ地区ではさらに深刻な事態が引き起こされている。16日、生後10カ月の乳児に、同地域で25年ぶりとなるポリオの感染が確認された。ポリオはワクチン接種により十分な抗体を得られるが、この乳児はポリオの予防接種を受けていなかったとされる。

 ポリオは筋肉のまひを生じ、特に5歳以下の子供が感染しやすいと言われる。深刻な後遺症の恐れもあり、成人では死亡の確率も高い。

 7月にはガザ保健省とユニセフが、ガザ地区の下水にポリオウイルスの検出を確認していた。地域で活動する小児科医はアルジャジーラに対し、ウイルスの存在が大量の感染を引き起こしかねない「時限爆弾」だと警告していた。

 ポリオは主に感染者の便を介してうつるため、通常は患者を隔離し、トイレを別にする。しかし、予防接種を受けていない子供たちが難民キャンプに密集している状況では隔離は不可能だからだ。

 感染確認を受けて国連のグテーレス事務総長は16日、64万人以上の子供たちを対象とした、大規模なワクチン接種計画を発表。「ポリオ(の蔓延)は政治を超えるもの」とした。

 しかし、戦闘の中での集団接種は不可能であるとし、イスラエルとハマスの双方に戦闘休止を求めた。ポリオを放置すれば、パレスチナの子供たちだけではなく、近隣諸国や地域に「悲惨な影響をもたらす」と呼びかけた。

 また「『究極のポリオワクチン』は、ガザにおける平和と即時の人道的停戦だ」とも述べている。

画像:国連グテーレス事務総長のXより

 イスラエルは昨秋のハマスによる越境攻撃以来、同組織の殲滅を掲げてガザ地区への攻撃を続けてきた。だが、現在のイスラエル国軍の行動は、先のイスラエル財相による暴言が示すとおり、停戦合意による人質救出よりも、200万のパレスチナ人虐殺計画を優先し、それを遂行しているようにしか見えない。

 テロ攻撃などに加担できるはずのないパレスチナの乳幼児に対する容赦ない攻撃が、そのことの証しではないだろうか。

 仮に今回ようやく停戦合意が結ばれたとしても、ハマスに加え、ネタニヤフ政権の戦争犯罪は断固として追及され続けるべきだろう。永続的な和平や国際法を尊重せず、多数の子供たちを犠牲にしてきた現ネタニヤフ政権下のイスラエルに国際社会での、特に先のパリオリンピックや長崎の平和祈念式典での居場所などないはずだ。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。