- ブラジル最高裁によるX停止命令をめぐり、Xのオーナーであるイーロン・マスク氏が猛反発している。
- マスク氏は「言論の自由」を盾にするが、背景には極右でヘイトを煽ってきた「ブラジルのトランプ」ボルソナロ前大統領と司法当局の攻防も透ける。マスク氏は衛星インターネットのスターリンク事業などでボルソナロ前大統領と近い関係にある。
- フランスではテレグラムCEOが逮捕されるなど、SNSプラットフォーム事業者に対する当局の対応が厳しさを増している。ロシアによるヘイトや偽情報の拡散工作に対する懸念も高まるなか、当局とプラットフォーム事業者の戦いはさらに激しくなりそうだ。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
8月30日、SNS大手のX(旧ツイッター)がブラジル連邦最高裁判所により同国内でのサービス停止を命じられた。翌31日から、ブラジルでXへのアクセス遮断が続いている。
9月2日には、停止命令を下した判事を含む5人の判事が小法廷で採決を行い、全員一致でこの決定を支持した。ユーザーが国外のサーバーを装って接続できるVPNを使用してアクセスした場合には、日額およそ9000米ドルの罰金を科すという、極めて厳しい措置だ。
Xの所有者で富豪のイーロン・マスク氏はこの決定に猛反発し、得意の「マスク節」を炸裂させている。X利用を禁じたブラジル最高裁のモラエス判事に対し「独裁者で詐欺師」「判事ではなく、ガウン(法服)は単なるコスプレ」などと、相変わらずの誹謗中傷をXでまくし立てている。
マスク氏傘下の衛星通信サービス会社スターリンクも、当初Xへのユーザーアクセス遮断に抵抗していたが、9月3日、ブラジルの通信規制当局に最高裁の決定に従うと伝え、方針を転換させた。Xの使用停止前の8月29日には、これまでにXが科せられた300万ドルもの罰金を支払って来なかったとして、スターリンクの銀行口座が凍結され、取引が禁じられた。
建前上は、マスク氏がブラジルの司法当局に屈した形になる。
そもそも最高裁はなぜ、Xの使用停止を命じたのか。
人口およそ2億1500万人のブラジルで、Xの月間アクティブユーザーは約2000万〜4000万人と推定されている。米ワシントンポストは3日、ツイッター時代に同国で導入された当初は人口の5分の1に当たる4000万人以上が使用し、一時は米国に次いで世界2位のユーザー数を誇ったものの、最近では約半減したとしている。
それでも、今年4月時点のユーザー数は世界6位で、サービス停止の影響を受けた人たちは少なくない。Xにとっても、それだけ大きな収入源だったということだ。
ここで、モラエス判事が今回のX停止命令を下した経緯を振り返っておこう。