SNSでのヘイト・偽情報拡散の背後にロシアの影?

 そして、そのボルソナロ氏はロシアのプーチン大統領ともオトモダチのようだ。ボルソナロ氏の大統領在任中の2020年には、バーチャルBRICSサミットの席上プーチン氏がコロナに罹患した同氏を「真の男だ」などと持ち上げたと伝えられ、両者の間に「ブロマンス」が生じたのではと話題にもなった。22年には各国がロシアのウクライナ侵攻によりプーチン氏を非難した中で、当時大統領だったボルソナロ氏は同調せず、中立の立場をとると主張した。

 ちなみにプーチン氏は今年2月、マスク氏についても「賢い人物」と評している。

 11月にリオで開かれる予定の20カ国・地域(G20)首脳会議では、プーチン氏が参加するのかが注目される。国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出て以来、ICC加盟国には同氏逮捕の義務が生じる。ブラジルはICC加盟国だが、ルーラ大統領は逮捕の決定権は「政府ではなく司法にある」とおよび腰だ。

 一連の背景からは、マスク氏がブラジルの最高裁を攻撃し続ける理由が、ロシアとも何らかの繋がりがあるようにも思えてくる。

 米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は今年2月、マスク氏が当時異様な数のロシア関連の投稿をし、その多くがプーチン氏寄りの見解であることをマスク氏ウォッチャーの専門家らが不安視していると伝えた。マスク氏本人は、指摘を一蹴している。

 確かに、今回ブラジルのX停止命令には独裁だ検閲だと騒ぎ立てているが、同じくXを禁じているロシアに対しては、同様の噛みつき方はしていない模様だ*2

*2: Elon Musk Is Posting a Lot About Russia. That’s Got Experts Worried(WSJ)

 ロシアは2016年の米大統領戦や英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の際も、SNSを駆使して西側民主勢力への破壊工作を行なった疑惑が根強く指摘されている。最近では、マスク氏がツイッターを買収した際、プーチン氏に近いオリガルヒの親族の関与も指摘された*3

*3What X's alleged ties to Russian oligarchs mean for Musk(DW)

 テレグラムCEOのドゥーロフ容疑者にしても、当初は反体制派を支持し、ロシア当局に反発していたが、近年政府側に寝返ったのではないかとの疑惑も取り沙汰されている。

 仮に、SNS上におけるヘイトや偽情報の拡散の背景に、西側諸国の弱体化を狙うロシアの暗躍も少なからず関係しているのならば、司法によるプラットフォームとの戦いは、今後も熾烈を極めるのかもしれない。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。