Xで拡散されるヘイトと戦ってきたブラジルの裁判所

 裁判所は、X上にはびこるヘイトや偽情報がブラジルの民主主義を脅かすものとして、度々特定のアカウント凍結や投稿の削除要請をしてきた。マスク氏率いるXは「言論の自由」と民主主義を盾に、これを拒否し続けてきた。8月には、決定に従わないのならXの代表者を逮捕すると裁判所から「脅迫」されたとして、Xのブラジル事務所を閉鎖した。

 ブラジルでは外国企業が事業を行うためには、法定代理人を任命しなければならない。Xの停止措置は、罰金が支払われ、新たな法定代理人が任命されるなど、最高裁の命令に従い法的要件を守れば解除されるものだ。

ブラジルではXへのアクセスがブロックされている(写真:ロイター/アフロ)

 つまり、最高裁はいきなりXのサービス停止に至ったわけではなく、法に沿って段階的に要請や警告をしてきた。ブラジルの法律上、違法行為を重ねてきたのはマスク氏の方だ。

 マスク氏は最高裁による措置が、民主主義と言論の自由に対するモラエス判事による攻撃だと論点をすり替え、X上でがなり続けている。しかし1日、この件に関してアルジャジーラに出演した複数の専門家は概ね今回の措置について、これがブラジルの司法当局による言論弾圧などではなく、同国の法手続きを無視してきたX並びにマスク氏に非があると指摘している。裁判所の要請や命令に不服があるのなら、司法の場で反論する自由と権利がXには認められているという見方だ*1

*1Is Brazil's ban of social media platform X legal or political? | Inside Story(Al Jazeera)

 2022年、トム・クルーズ主演の続編が公開された「トップガン・マーヴェリック」よろしく「起業家のマーヴェリック(異端児)」を気取ってきたマスク氏だが、これまでもしばしば世界各国で、法や秩序を軽視する傍若無人ぶりが指摘されてきた。

 2022年のX(旧ツイッター)買収当時、投稿されるコンテンツの違法性などを判断するモデレーターの多くを削減した。モデレーターは、投稿がヘイトや誹謗中傷、差別、暴力の煽動や児童ポルノなどの違法コンテンツではないかを見極める役割を担い、SNSを安全に運営するための生命線と言っても良いだろう。

 それ以降、X上にはヘイトスピーチが激増したとの調査報告もあり、旧ツイッターが危険と判断して永久凍結した米トランプ前大統領や英極右活動家などのアカウントも復活している。

 国境を越え、数億もの人たちが瞬時にアクセス可能なSNS規制は困難を極める。言論の自由とのバランスをどう取るのかといった論点も焦点となってきた。この夏、英国各地で起きた大規模な暴動でも、言論の自由の名の下に、SNSが暴徒を煽り、ヘイトを拡散する負のツールと成り下がった。

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 しかしこの数週間、ブラジルにおけるX停止だけではなく、ヘイトスピーチなどの違法コンテンツを投稿・拡散した人物に加えて、プラットフォーム事業者やSNSの所有者にも、遂に司法のメスが入ることになるのかと注目された大きな動きが他にもあった。