(写真:elutas/イメージマート)
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ファイナンシャルプランナーの高山一恵氏のもとに寄せられた相談事例を通じてマネープランを考えていく連載「人生100年のマネー相談」。今回は、企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入していた40代の会社員男性が、転職時に必要な手続きを忘れてしまい大失敗した事例をご紹介します。企業型DCを放置している場合のデメリットや、企業型DCを移管するための手続きなどについて解説します。

(高山 一恵:Money&You取締役、ファイナンシャルプランナー)

(注:相談者のプライバシーに配慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください)

企業型DCを放置しているとどうなる?

 今回相談に来たKさんは、前職で企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)に加入していたそうですが、転職してから仕事が忙しく移行手続きを放置していたとのこと。会社の同僚から手続きを放置しているとよくないらしいという話を聞いて相談にいらっしゃいました。

 そもそも企業型DCとは、企業が掛金を拠出し、従業員が自分で商品を選んで運用する制度。最近では、多くの企業が導入しています。

 年金の受け取り開始年齢である60歳より前に会社を退職したり、転職をしたりした場合、転職先の企業型DCやiDeCo(個人型確定拠出年金)に資産を移換する手続きが必要です。

 国民年金基金連合会の資料によると、転職時などに手続きをしないまま放置状態の企業型DCは、総額で3361億円(2024年末時点)にも上ります。人数にして、約138万人の資産が放置されているとのことです。

 参考までに企業型DCの加入者数は約830万人(2024年3月末時点)。上記の約138万人という数字は決して少なくないことがわかります。

 本来、企業型DCに加入している人が勤めている会社を退職した場合、退職から「6カ月以内に」自身で「移換手続き」をすることが必要になります。

 転職先に企業型DCの制度があればそちらに資産を移し、フリーランスになったり専業主婦(夫)のように再就職しなかったりした場合や、転職先に企業型DCの制度がない場合は、iDeCoに資産を移します。

 しかし、この手続きを行わないと、これまで積み立ててきた資産は売却され、国民年金基金連合会に自動的に移されてしまいます。このことを「自動移換」といいます。

 Kさんは、まさに企業型DCの移換手続きを行わず6カ月以上放置していた状態でした。