(写真:elutas/イメージマート)
目次

ファイナンシャルプランナー高山一恵氏のもとに寄せられた相談事例を通じてマネープランを考えていく連載「人生100年のマネー相談」。今回は、勤務先の会社が「選択制企業型DC」を導入したけれど、掛金を企業型DCで運用した方が良いのか、給与として受け取った方が良いのか迷っているという30代の独身男性の事例です。

(高山 一恵:Money&You取締役、ファイナンシャルプランナー)

(注:相談者のプライバシーに配慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください)

 今回、ご相談にやってきたのは、30代の独身男性Hさん。中堅メーカー勤務で、会社が選択制の企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)を導入したとのこと。会社から支給される掛金を企業型DCで運用した方が良いのか、給料としてもらった方が良いのか迷っており、選択するにあたり、どのようなポイントで選択をすれば良いのか、メリットやデメリットも含めて教えてほしいとのことでご相談にいらっしゃいました。

選択制企業型DCとは

 近年多くの企業で導入が進んでいる企業型DC。本来は、企業が掛金を拠出し、従業員が商品を選んで自分で運用する年金制度です。

 しかし、「選択制」企業型DCを導入する企業もあります。「選択制企業型DC」とは、従業員が給与の一部を企業型DCの掛金として拠出するか、給与として受け取るか、選択できる企業型DCのこと。会社によっては、給与ではなく賞与や退職金原資などを、拠出の対象とすることもあります。

 選択するにあたっては制度のメリットとデメリットをよく理解することが大切です。

 仮に企業型DCへの拠出を選択した場合、例えば、1カ月の給与が40万円なら、そのうちの2万円を企業型DCの掛金とすると、残りの38万円が給与として支払われます。

 この場合、拠出分の金額は給与とみなされなくなるため、結果としてその分、所得税、住民税が減るメリットがあります。また、会社員の場合、毎月の給与天引で厚生年金、健康保険といった社会保険料を支払っていますが、これらの社会保険料の金額は給与額に応じて区分される等級ごとの「標準報酬」に保険料率を掛けて計算されます。つまり、給与が下がれば等級も下がるので結果、社会保険料も安くなります。

 Hさんは、30代ですので、今後30年ほど企業型DCに加入できることになり、税金や社会保険料負担が合計数百万円単位で軽減される可能性があります。

 当初Hさんは、税金や社会保険料の負担が減るなら、給与で受け取るよりも企業型DCに掛金を拠出した方が良さそうだと感じていたようでした。

 ただし、社会保険料の金額が安くなるということは、将来受け取る年金の金額や社会保障の給付額が少なくなります。国民年金には影響はありませんが、老齢厚生年金をはじめ、障害厚生年金、遺族厚生年金などの年金の金額が減ったり、病気やケガになって会社を休む場合に健康保険から支給される傷病手当金、雇用保険から支給される失業した際の失業給付や、介護で会社を休む際の介護休業給付金の給付額も減ったりしてしまいます。