19世紀の米国を支配した弱肉強食の世界

 次に着手したのが雇用の創出と保護。国に介入されることなく自由に競争していた企業がバタバタ倒産したかわりに、道路や橋の建設などの公共事業を行ったり、農産物の生産量や価格に介入したりして、経済の安定を試みました。

 その際、「みんな自由にやりたいよね!」の“みんな”に入っていなかった労働者のために労働基準法をつくったのもローズヴェルト。最低賃金を設定し、長時間労働を禁じ──と書くと今となっては当たり前ですが、それだけ当時の労働環境は劣悪でした。

「子どもとか働かせちゃダメなんだよ」と、児童労働が禁じられたのもニューディール政策です。

 社会保障制度もこの時に作られ、年金や失業保険が保障されました。

 国が市場に介入し、労働者の権利を守り、社会保障制度を整える。これは今日でいう大きな政府、北欧の国々のようなリベラルそのものです。全員が喜んだかといえば、そんなことはありません。既得権益がある大企業からはブーイングの嵐。「小さい政府が国是」とも言えた米国の政治では特異なことでした。

「今までは自由にビジネスだけしていればよかったのに、『労働者の権利を守れ』とかうるさいし、社会保障のために税金は上がるし……金儲けの邪魔! 迷惑!」

 そう思ったかどうかは別として、政府が企業に口出しして権限を持つのは、自由な経済活動を保証する憲法に違反すると経営者が訴えました。連邦最高裁がニューディール政策に関連する法律に対して違憲判断をすることもありました。

 19世紀の米国は、あくまでも個人主義が支配的でした。実力本位で弱肉強食の世界は、切磋琢磨して産業やテクノロジーを発展させてきました。しかし貧乏人はますます貧しくなり、金持ちはますます裕富になる格差社会を生む原因とも言えます。

 ローズヴェルトの打ち出した“シン・リベラル”は、「国が介入しながら個人の自由を守る」というものです。もちろんローズヴェルトは“シン”などと言わず、「これこそ本当の政策だ」と主張し、人々にもそれが浸透します。

 こうして民主党はローズヴェルトの理念を基盤とした「大きな政府」が基本政策となります。