5.クルチャトフ原発を核抑止に使う

 ロシアは侵攻当初、ウクライナキーウの北、ベラルーシとの国境の近くに位置し、廃炉作業中のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発を一時占領した。

 このため、放射線が拡散するのではないかと心配された。

 現在、ロシアはウクライナのザポリージャ原発を占拠している。

 ウクライナはこれまで、その原発を奪回することも、施設内でのロシアの悪意ある行為を止めることもできなかった。

 ロシアは、ロシア軍の戦況が悪化すれば、その原発を爆破し、ウクライナを核物質で汚染させることができる。

 ロシアは、原発の危険性を十分に知り尽くしていて、原発に対して悪意ある行為を行うことを想像させて、脅威を煽ってきた。

 首都キーウは、ザポリージャ原発から430キロ離れている。

 ウクライナは今、クルスク州に越境攻撃を行い、ロシア・クルスクにあるクルスク原発にあと45キロまで迫っている。

 占拠できれば、同原発を支配下に置くことができる。現在の段階でも、ウクライナのHIMARS等(射程45~60キロ)でロケット等による攻撃ができることになった。

図 クルスク原発とザポリージャ原発等の位置的関係

出典:グーグルアース地図に、筆者が原発と首都の関係を入れた

 もしも、ロシアがザポリージャ原発を爆破するようなことがあったり、あるいは爆破するぞと恫喝しようとしたりしても、ウクライナはこれまで国際機関に訴えるだけで何もできなかった。

 しかし、現在ではロシアがそのようなことを行えば、逆にクルスク原発を攻撃するぞと脅したり実際に砲撃したりして、部分的に破壊することができる。

 クルスク原発から首都モスクワまで、約470キロである。ザポリージャ原発と首都キーウまでの距離とほぼ同じだ。

 もし爆破されることになれば、相互の首都は核物質の影響を同じように受ける可能性がある。

 原発を占拠、あるいは攻撃するということは、世界的に非難を浴びるとともに、自国へも放射物質の影響を受ける。

 実行するには敷居はかなり高く、決断しにくい状況だが、実行するそぶりだけでも暗黙の恫喝にはなる。

 ウクライナがクルスク原発を支配下に置くことによって、ロシアの原発攻撃を抑止することが可能となったのである。