法曹界の「ブルーパージ」
やはり終盤で扱われると見られるのが、桂場等一郎(松山ケンイチ)による裁判官の思想統制である。ブルーパージだ。桂場のモデルである第5代最高裁長官・石田和外氏が、1970年代にリベラルな思想を持った裁判官を人事面で冷遇した。
桂場は司法界に影響力を持つ貴族院議員・水沼淳三郎(森次晃嗣)がライバルたちを蹴落とそうとして仕組んだ「共亜事件」(第18回~25回)で無罪判決を出したため、戦前は冷や飯を食った。このため、司法の政治からの独立に躍起になった。
「もう2度と権力好きのジジイたちに好きなようにはさせない!」(桂場、第70回)
しかし、桂場自身が権力になってしまうと読む。桂場と親しかった穂高は「君もいつかは古くなる」(同)と寅子に言い、戒めたが、この言葉は桂場の変心の伏線ではないか。
ブルーパージでは青年法律家協会(青法協)のメンバーを狙い撃ちにした。だからブルーパージである。青法協のメンバーは再任拒否の憂き目に遭った。青法協の司法修習生は罷免された。何人もの裁判官が苦しめられた。法曹史の暗部である。
当時を知る法曹関係者はこう振り返る。
「まず自民党が裁判官の人事に介入しようとした。それを嫌がった石田さんが先手を打ってリベラルな裁判官を排除してしまった」(法曹関係者)
終盤に尻つぼみになる朝ドラは少なくない。最終回が近づくと無理に盛り上げようとする作品もある。一方で『虎に翼』は最後まで目が離せそうにない。
参考文献:『三淵嘉子と家庭裁判所』(淸水聡編著、日本評論社)