現実では法曹界に根強く残っていた女性差別

 現在の寅子は裁判所内で男女差別を受けていないように見える。しかし史実では違う。1970年、当時の最高裁人事局長が「女性は歓迎しない」などと差別発言を繰り返し行った。

 そのとき、三淵さんは東京家裁の裁判官だったが、一方で日本婦人法律家協会の副会長だった。三淵さんは同協会副会長として最高裁人事局長に「女性に対する侮辱」などと強く抗議する。人事局長は自分の人事を決める人だが、ひるまなかった。

 婦人法律家協会の会長も一緒に抗議した。その人は、三淵さんの明治大の先輩で弁護士の久米愛さんである。このドラマには寅子の明律大の先輩で、泣き虫の中山千春(安藤輪子)として登場した。

 法曹界での女性差別問題は1976年にも起こる。今度は司法研究所の事務局長が、酒席で「男が命を賭ける司法界に女が進出するのは許さない」などと暴言を吐いた。

 これらのエピソードは今後、取り上げられるに違いない。おそらく中山は再登場する。

 中山のモデルの久米さんは三淵さんと同じく極めて優秀な人だった。世界的に知られた存在で、国連が「日本を代表する人権派弁護士」と評したほど。病死したために実現しなかったが、女性初の最高裁判事候補だった。