美佐江は善悪の価値基準が狂っている。寅子に対し「どうして悪い人から者を盗んではいけないのか 自分の体を好きに使ってはいけないのか。どうして人を殺したらいけないのか」(同)と真顔で言った。おそらくサイコパス(人格障害の一種で他人との共感性や罪悪感などが欠けている)なのだろう。

 美佐江は東京大に入った。家柄が良く頭脳明晰だから大人たちは彼女のウソを信じた。学校の成績と道徳心は無関係なのだが、いつの時代も高学歴者は信用を得やすい。

 一方で現在は笹山(田中要次)の寿司屋で働く元戦災孤児の道男(和田庵)はなかなか他人に信頼されなかった。脚本を書いている吉田恵里香氏(36)による皮肉だろう。世間は人間性より肩書きや生育歴、経歴を重んじがちだ。

歴史的裁判となる「原爆裁判」

 寅子の東京地裁での上司は汐見圭(平埜生成)。寅子の明律大法学部の同級生であるチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)の夫だ。気の良い人物である。

朝ドラ「虎に翼」公式Xより
拡大画像表示

 汐見と寅子は大きな裁判を受け持つ。広島と長崎の被爆者が国に損害賠償を求めた民事訴訟である。原告の代理人は戦前、寅子が弁護士として働いた雲野法律事務所の雲野六郎(塚地武雅)だった。正義感の強い社会派弁護士だから、納得である。