(川岸 徹:ライター・構成作家)
徳川御三家の筆頭、尾張徳川家伝来の名品を紹介する展覧会「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」。東京・サントリー美術館で開幕した。
国宝《源氏物語絵巻》とは?
平安時代の11世紀初め、関白藤原道長の娘・中宮彰子に仕えた紫式部は54帖から成る長編『源氏物語』を著した。主人公・光源氏の生涯を軸に繰り広げられる、平安貴族の物語。NHK大河ドラマ『光る君へ』の描写から、平安時代の煌びやかさに興味を高めている人も多いだろう。
紫式部『源氏物語』は成立から間もなく絵画化が試みられるようになった。今で言うところの、ベストセラー小説のコミック化のようなもの。その中で現存する最も古い作品が12世紀前半に制作された国宝《源氏物語絵巻》だ。『源氏物語』54帖の各帖より1~3場面が絵画化され、その場面に対応する物語本文が「詞書」として書き写されている。
当初《源氏物語絵巻》は全10巻程度のボリュームがあったと考えられており、江戸時代初期には、そのうちの3巻が尾張徳川家に、1巻が阿波蜂須賀家に伝来。その後、徳川家本は愛知・徳川美術館に受け継がれ、蜂須賀家本は東京・五島美術館の収蔵品になった。点数にすると、徳川美術館が絵15図・詞書16段、五島美術館が絵4図・詞書4段である。
全19図の鑑賞は意外に難しい
というわけで、現在、存在が確認されている国宝《源氏物語絵巻》の絵図は全19図。日本美術ファンや源氏物語ファンには19図を全点踏破したいと願っている人が多いのだが、これがなかなか容易な道ではない。収蔵する美術館は2館だけだが、保存上の理由から常設展示はない。「特別公開」と称して作品を入れ替えながら、1作品につき年に数週間程度公開されているのが現状だ。
実は2020年に全点踏破の大チャンスがあった。五島美術館の「開館60周年記念特別展 国宝 源氏物語絵巻」で、27日間にわたって全19図がずらりと並ぶという。楽しみにしていたのだが、コロナ禍により展覧会自体が中止となってしまった。ああ、無念。ここは気を取り直して、コツコツと数を積み重ねていくしかない。
その第一歩にふさわしいのが、サントリー美術館で開幕した「徳川美術館展 尾張徳川家の至宝」。《源氏物語絵巻》の4場面が展示替えをしながら1場面ずつ特別公開されている。