パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館。3館のコレクションをテーマごとに“トリオ”で紹介する展覧会「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」が東京国立近代美術館で開幕した。
文=川岸 徹 撮影/JBpress autograph編集部
今まで見たことがない企画に挑む
美術作品で「トリオ」といえば何を思い浮かべるか。フランシス・ベーコンの3連作か、それとも黒田清輝の《智・感・情》か。いえいえ、今回の展覧会は同じ作家ではなく、時代や流派、洋の東西を越えて、異なるアーティストの作品が「トリオ」を組んでお披露目されるという。そんな美術史上初めての試みとなる展覧会「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」が東京国立近代美術館で開幕した。
まずは本展の概要を説明しておきたい。展覧会に出品されるのはパリ、東京、大阪の3都市にある3つの美術館——パリ市立近代美術館、東京国立近代美術館、大阪中之島美術館のコレクション。いずれも近現代を軸にしたコレクションに定評があり、各都市を代表する美術館でもある。
その3館が共同で企画を立て、コレクションを活用した展覧会を開催することになった。シャルロット・バラ=マビーユ(パリ)、横山由季子(東京)、高柳有紀子(大阪)。各館から選ばれた3名の学芸員が、展覧会の企画づくりを開始した。
膨大なコレクションをどうやって見せようか。3館が所蔵する名品をシンプルに並べていくという手法もあるし、20世紀の美術動向に合わせて時系列で美術史の流れを示していくこともできる。だが、そうした一般的な展示手法ではサプライズがない。もっと斬新な構成にチャレンジしたい。
模索の末、いたった結論が「トリオ」だ。それぞれの美術館から1点ずつ作品を選び、合計3点をひとつの「トリオ作品」として見せていく。主題やモチーフが同一、色や形が似ている、素材が同じ、作品に共通する背景がある。そんな共通性をもつ作品を並べると、いったいどんな化学反応が起きるのか?
3館の学芸員3名は、10数回にもおよぶオンラインミーティングを開催。トリオの編成について議論を重ね、作品画像を見ながら試行錯誤を繰り返した。そして全34組のトリオが誕生したのである。
名画の共通点を探る楽しさ
展覧会の冒頭を飾るのは、「コレクションのはじまり」と題されたトリオ。ロベール・ドローネー《鏡台の前の裸婦(読書する女性)》(パリ)、安井曽太郎《金蓉》(東京)、佐伯祐三《郵便配達夫》(大阪)。3点とも椅子に座った人物像というだけではなく、各館最初のコレクションのひとつという共通点がある。
「モデルたちのパワー」トリオは、女性モデルが持つ力に着目した編成。アンリ・マティス《椅子にもたれるオダリスク》(パリ)、萬鉄五郎《裸体美人》(東京)、アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(大阪)。いずれの女性も片肘をついたリラックスしたポーズを取っているが、その目力は強くて鋭い。
「都市のグラフィティ」トリオは、佐伯祐三《ガス灯と広告》(東京)、ジャン=ミシェル・バスキア《無題》(大阪)、フランソワ・デュフレーヌ《4点1組》(パリ)の共演。どの作品からもストリートのざわざわとした空気感と荒々しいエネルギーが伝わってくる。
こうした個性的なトリオが34組。では、「自分にとってのベストトリオはどれか」を考えてみたい。出品作はパリ、東京、大阪を代表する名門美術館のコレクション、各作品に力があるのは当たり前。トリオ編成によって、どれだけ新しい「何か」を生み出せたかに注目する。