現代に読み継がれる和歌や古典文学を題材とした絵巻や屏風などから、「歌と物語」と「絵画」との関係性を探求する企画展「歌と物語の絵 ―雅やかなやまと絵の世界」が泉屋博古館東京で開幕した。
文=川岸 徹 撮影/JBpress autograph編集部
歌と物語をテーマに“住友コレクション”の名品を紹介
現代において楽曲や小説にインスパイアされた映画・ドラマが制作されているように、古き日本でも歌や物語の “ヴィジュアル化”が盛んに行われてきた。和歌に詠まれた三十一文字の世界観を絵画化したり、物語に絵を添えた絵巻物が作られたり。逆に絵から感興を受けた歌や物語が生まれたりもした。「歌と物語」と「絵」は古来より無限ループのような相関関係を築いている。
そんな「歌と物語」と「絵」の関係性をテーマにした企画展「歌と物語の絵 ―雅やかなやまと絵の世界」が泉屋博古館東京にて開幕した。住友家が収集してきたやまと絵コレクションを通して、和歌や古典文学がどのように視覚化されてきたのかを探っていく。
和歌の世界観やイメージを視覚化した「歌絵」
まずは「歌」。平安時代中頃、和歌の隆盛とともに「歌絵」が作られるようになった。歌に出てくる名所や景色をそのまま表したもの、歌の意味や内容を独自に解釈しそこから広がるイメージを絵画化したもの。和歌にたびたび登場する地名は「歌枕」として親しまれ、実際の景観よりも和歌によって培われたイメージが広く浸透するようになった。歌絵には、そうした「歌枕」のイメージが描き込まれたものが多い。
出品作のひとつ、伝土佐広周《柳橋柴舟図屏風》。向こう岸に山並みを望む大きな川が流れ、金色の橋が架けられている。人の気配もなく、一見すると特定の川ではなく、普遍的な河川の景観を描いた絵画のよう。だが、よく見れば、画中に柴舟と網代木(杭)が描き込まれていることに気づく。「川、橋、山に、柴舟、網代木」とくれば、和歌で繰り返し詠まれ、物悲しく美しい理想郷とされた「宇治」の地だと理解できる。現代人にはピンとこないかもしれないが、当時の知識人にとっては、これが「宇治」の絵であることは明白だった。
わかる人には、わかる。そんな「歌絵」は相手の教養を試す格好の教材でもあった。「これは美しい。宇治を描いたものでございまするな」。「よくお分かりですな。感服いたしました」。そんなやり取りを通して、相手の知力を推し量ったのである。