装置のタイプが違うと、別のがんの治療はできないという現実

 頭頸部がん以外にも患者数の多い乳がんから、治療法が確立していない希少がん(膠芽腫、血管肉腫)まで治療の効果が期待できるBNCTだが、実現までには装置に関わる課題と、現在のがん治療の進化がネックになっていると国立がん研究センター中央病院の井垣浩放射線治療科長は話す。

「加速器BNCTシステムは、従来の陽子線や重粒子線で使われている加速器よりも格段に電流量が大きく、安全面が非常に重要になります。そのため非常に苦労して開発されて、やっと臨床に使えるようになりました。

サイクロトロン型加速器を用いた治療システムのイメージ(画像提供:南東北BNCT研究センター)
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 現在、稼働している加速器にはいくつかのタイプがあります。頭頸部がんの治療ができる南東北BNCT研究センターと関西BNCT共同医療センターの装置は、住友重機械らが共同開発したサイクロトロンです。国立がん研究センターと江戸川病院は(株)CICSらと共同研究した直線型加速器。筑波大学は、高エネルギー加速器研究機構や日本原子力研究開発機構らと開発した直線型加速器です。また、湘南鎌倉総合病院は、Neutron Therapeutics, Inc.(アメリカ)のサイクロトロン静電型加速器とそれぞれ方式が違います。

 理論上はどれも中性子線を発生させる装置ですが、医療機器・装置として使用するためには安全性試験、性能試験、非臨床試験から具体的な疾患(がん種)への臨床試験を行い、厚生労働省から医療機器としての薬事承認を受けなければなりません。しかし、現在の国の方針では、加速器の仕組みが違うと同じ質の中性子線とは認定されないのです」

 つまり、こういうことだ。国立がん研究センターは現在、血管肉腫に対する第Ⅱ相の治験を行っているが、それが厚労省から承認されたとしても、頭頸部がんの治療も行うことはできない。同様に、関西BNCT共同医療センターや筑波大学では、血管肉腫の治療はできないことになる。

 では、タイプの違う加速器が各々でいくつものがんの治験を行っていけばいいのかというと、それも難しいと井垣氏。