奏効率の高いBNCTが必ずしも選ばれない現状

 では、どちらがより効果があるのか。

 アルミノックス治療は、海外で行われた切除不能な局所再発の頭頸部扁平上皮がん患者30人への治験において、がんが全て消失した完全奏効4人(13%)、状態が改善した部分奏効9人(30%)で、効果があったとされる奏効率は43%。BNCTは、南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)において保険診療で行われた頭頸部扁平上皮がん55例の治療において、完全奏効26人(47%)、部分奏効13人(24%)で、奏効率は71%だ。

 数字だけを見るとBNCTに分がありそうなものだが、そうでもないらしい。南東北BNCT研究センターの髙井良尋センター長と担当医師はこう話す。

BNCT治療室内で、中性子線が飛び出してくる照射口を指さす髙井良尋センター長。頭頸部がん患者用の治療台がセットされている=福島県郡山市の南東北BNCT研究センターにて(写真:共同通信社)
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「治療の対象は〈切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部がん(上皮系の悪性腫瘍のみ)〉の患者さんなので、全体から見ると、そう多くありません。それでも対象になる患者さんは年間で数百人ほどおられますから、2施設で分けて治療していたらフル稼働になるはず。

 しかしながら、再発頭頸部癌の治療手段には、アルミノックスやBNCTだけではなく、従来行われていた化学療法の他、近年の免疫療法、化学療法と免疫療法との併用療法等多くの選択肢があります。

 BNCT以外の治療法は頭頸部癌の治療を最初に手掛ける頭頸部外科医等の手元にある治療手段であり、それらの治療法が優先されている現状があります」

 また、アルミノックス治療は実施可能な施設が北海道から沖縄県まで全国に約100カ所あるが、BNCTは南東北BNCT研究センターと大阪医科薬科大学にある関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)の2カ所のみだ。

「BNCTの方が良好な治療成績であることが分かっていても、BNCT施設が遠いとの理由も一部あり、適応がある場合には全国的に施行可能なアルミノックス治療が優先されているようです。BNCTに紹介される患者さんの診療情報には、〈レーザーが十分に届かずアルミノックス治療の適応にはならないのでBNCTはいかがでしょうか〉との記載が多いのです」(同)