なぜ日本では、イノベーション(技術革新)が生まれないのか。どの業界も新しさを求めているにもかかわらず、全盛期のレガシー(遺産)で延命を続ける企業は多い。哲学者の小川仁志氏は著書の『「当たり前」を疑う100の方法 イノベーションが生まれる哲学思考』(幻冬舎新書)において、そんなマンネリを抜け出し、ものの見方が変わるノウハウを哲学的な切り口で解説している。
(東野 望:フリーライター)
物事を永遠に未完成だと捉えてみる
本書の趣旨がわかりやすいのが、フランスの哲学者カトリーヌ・マラブーが提唱した「可塑性」の概念だ。私たちはつい物事を完成したものと認識し、もうそれ以上変化することはないと決めてかかってしまうが、可塑性の観点から小川氏はこう指摘する。
物事は常に、そして永遠に仮の状態なのです。可塑性とは、そんな物事に新たな可能性を与える動作であり、きっかけとなる原理としてとらえればいいと思います。
そして次のような例を挙げる。机は昔から4本の脚がついたものとして完成しているように思えるが、技術の進歩によって脚を折りたたんでドローンのように空を飛び、空で優雅にデスクワークをすることが当たり前になる日が来るかもしれない。
可塑性を切り口にして考えることで、このような驚くべきイノベーションを生み出せるというのだ。
問題があるからこそ、イノベーションが生まれる
大きなイノベーションに限らず、日常の些細な問題にも哲学思考は応用できる。小川氏が挙げた近代ドイツの哲学者ヘーゲルの「弁証法」は、問題を切り捨てるのではなく問題を取り込んで発展させる思考法だ。
例えば「マイナーサービスで儲ける方法は?」と聞かれたとき、サービスをなんとかメジャーにする方法を考えたり、採算性の低さを理由にサービスからの撤退することを検討したりしてしまうと小川氏は指摘する。
しかし弁証法で思考すると「マイナーだからこそ希少価値があり、高単価で販売できる」という解決策が生まれてくる。つまりものごとをかたく捉えすぎず、マイナスをプラスに転じるのである。
弁証法を使えば、どんな問題も解決可能で、いわばこの世に不可能はないということになります。言うは易しで実際には難しそうに思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。要は逆転の発想をすればいいのです。その問題があるからこそいいのだというふうに。