アメリカやイスラエルに全面攻撃を躊躇させる「核抑止」の効果

 イランの軍事戦略は、近代兵器が圧倒的に少ないという弱点をマンパワーでカバーする人海戦術が基本で、その点では北朝鮮と酷似する。

 最近では「シャヘド136」をはじめとする自爆ドローン機の開発・量産にも熱心で、実際、フーシ派やハマス、ヒズボラなど同国が手なずける過激派勢力にも渡され、イスラエル攻撃に使われている。ロシアにも大量供与し、ウクライナ戦に投入されて戦果をあげる。

 イラン製ドローンは世界的にも急速に頭角を現し、コストパフォーマンスのよい「ゲームチェンジャー兵器」として重視する。

米軍艦が臨検したイラン小型船から出て来た大量のロシア製自動小銃米軍艦が臨検したイラン小型船から出てきた大量のロシア製自動小銃(写真:米海軍ウェブサイトより)

 ただし、仮にアメリカとの全面対決になれば、アメリカが誇る強大で超近代的な海空軍力の猛攻になすすべもないだろう。

 瞬時に制海権・制空権(航空優勢)を奪われ、数日以内にイラン側の主要軍事施設の大半が破壊され、強力なジャミング(妨害電波)やハッキングで指揮・通信インフラも不通となるだろう。そうなれば、軍隊は組織だった行動すらできなくなる。イラン側も鎧袖一触(がいしゅういっしょく)の状態に陥ることは百も承知だ。

イランを牽制するためインド洋に出動した2隻の米原子力空母イランを牽制するためインド洋に出動した2隻の米原子力空母。1隻で中小国の空軍に匹敵する戦闘機・攻撃機を搭載(写真:米海軍ウェブサイトより)

 そこでイランは軍事的劣勢をカバーする秘策として、1つは眼前のペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡を、機雷(海中で漂う強力な爆弾)で封鎖する作戦をチラつかせる。

 ペルシャ湾は世界屈指の油田・天然ガス田地帯で、原油・LNG(液化天然ガス)を満載したタンカーが常時同海峡を通過する。そこで海峡を封鎖すれば原油・天然ガス供給はストップし、西側はおろか世界経済が大混乱に陥る。つまり原油を“人質”にする作戦だ。

 もう1つが、懸案の核開発推進と、原水爆を遠距離まで飛ばす弾道ミサイルの量産だ。核兵器を持てばアメリカやイスラエルは全面攻撃を躊躇するはずという「核抑止」で、北朝鮮の戦略と同じ発想だ。

 弾道ミサイルはロシアと北朝鮮の協力を得ながら、「シャハブ」シリーズ(射程距離1700~1万km)や「ゾルファガール」(同300~700km)など数多くの種類を開発・量産し、ウクライナ侵略戦争で弾薬不足のロシアに“逆輸出”したり、フーシ派などの子飼いのゲリラ集団に供与したりしている。

イランのミサイル「ゾルファガール」イランのミサイル「ゾルファガール」(写真:ZUMA Press/アフロ)

 だが、前出の軍事専門家は、次のような見方をする。

「アメリカとイスラエルは、イランの核施設や人員、進捗具合などの情報を正確に把握し、核開発関連のコンピューターや情報ネットワークをハッキングしたり、コンピューターウイルスを仕込んだりするのはお手のもの。『その気になれば完膚なきまでに破壊するぞ』とイラン側に水面下で伝えているとの情報もある」

 実際、イランの核開発の中核を担うナタンズの原子力観覧施設が、ウイルス攻撃や謎の火災に見舞われるなど、過去3回も“攻撃”を受けている。