水面下で米国に「核合意復活」の働きかけをしていた可能性も

 ガリバフ氏は保守強硬派の総本山、イラン革命防衛隊の出身だ。一方ジャリリ氏は、米英仏ロ中独・EU(欧州連合)とイランとの間で交わされた「イラン核合意(包括的共同作業計画。JCPOA)」(2018年にアメリカは離脱)において交渉役を務めた経験があり、欧米との間に一定のパイプを維持する。

 前出の国際ジャーナリストは、「候補者の顔ぶれを見れば、ハメネイ師の推進する保守強硬路線に変更がないのは明らか」と強調したうえでこんな分析をする。

「賛否両論あるが、少なくとも軌道に乗りつつあった核合意を台無しにして離脱をゴリ押ししたのはトランプ前米大統領だ。そして次期米大統領選でトランプ氏の返り咲き、いわゆる『もしトラ』が現実味を帯び始めたため、イラン新政権の対米戦略は、米次期大統領が就任する2025年初めまで、ひとまず様子見といったところではないか」

イラン核合意を離脱した米トランプ前大統領に抗議するデモイラン核合意を離脱した米トランプ前大統領に抗議するデモ(2018年テヘラン、写真:AP/アフロ)

 ライシ氏は生前、表向きは欧米に強硬姿勢で臨んだが、水面下ではアメリカとの融和策を探っていたとも言われる。

 懸案の核合意の内容は、ウランの濃縮度合いを原水爆が起爆する純度90%以上よりもはるかに低い4%弱に薄め、同時に濃縮に使う遠心分離機の大半も破棄し、これと引き換えに欧米はイランへの制裁を徐々に解除するというものだった。

 だが2017年にトランプ氏が米大統領になると“ちゃぶ台返し”で核合意から離脱。その後ホワイトハウスの主はバイデン氏に代わったことで、ライシ氏はアメリカが早期に核合意に復帰することを願っていたとも聞く。

 一部の欧米メディアは、イランが今年4月下旬にEUを仲介役にして、60%の純度まで高めたウランを20%まで薄める代わりに、経済制裁を限定的に解除してほしいとの条件を米側に打診していたと報じている。

「今年4月下旬」という時期は非常に興味深く、イランはこの直前の4月13日~14日にアメリカが強力に支援するイスラエルに報復攻撃を行っている。

「後から考えれば、報復攻撃に際してイランがイスラエルやアメリカに事前に通報したり、あえて重要拠点を外したり、迎撃されやすいように弾道ミサイルよりもドローンを多用したりするなど、異様なほど気を遣っていた。こうした行為は水面下で核合意復活の駆け引きをしていたとすれば、納得がいく」(中東情勢に詳しい軍事専門家)