訪朝して北朝鮮の金正恩(右)朝鮮労働党総書記と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだロシアのプーチン大統領(2024年6月19日)訪朝して北朝鮮の金正恩(右)朝鮮労働党総書記と「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだロシアのプーチン大統領(2024年6月19日、写真:ロイター/アフロ)

プーチン氏が「同盟」の言葉をあえて避けた理由

 衰えを隠しきれない米大統領のバイデン氏に、相変わらずの“ドヤ顔”で迫る前米大統領のトランプ氏、うれしくて小躍りする北朝鮮最高指導者の金正恩氏、苦虫を噛みつぶしたような中国国家主席の習近平氏、そして、「ひょうたんから駒」で歓喜のロシア大統領のプーチン氏――。

「地政学」という題名の“大河ドラマ”を演じる役者たちは錚々たる顔ぶれで、その舞台は北朝鮮である。

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 ロシア事情に詳しい国際ジャーナリストはこう解説する。

「北朝鮮をめぐる中ロのさや当ての始まりで、今年6月に起こった2つの出来事が引き金になったようだ」

 中ロと言えば、対西側で結束する盟友同士というのが一般的な見方だが、「さや当て」とは穏やかではない。「2つの出来事」とは、6月19日のロ朝新条約締結と、その約1週間後に行われた米大統領選テレビ討論会(現地時間6月27日)のことを指す。

 前者は、6月18~19日のプーチン氏の北朝鮮訪問時に締結した「包括的戦略パートナーシップに関する新条約」だ。「新」がつくのは、冷戦期の1961年に旧ソ連と北朝鮮が結んだ「ソ朝友好協力相互援助条約」(旧条約)があるからで、「どちらか一方が第三国から攻撃された時は、共に軍事行動を起こす」という条項が入った軍事条約だった。

 だがソ連邦崩壊で冷戦が終焉、新生ロシアは同条約を破棄し、2000年に改めて「ロ朝友好善隣協力条約」を結ぶが、軍事条項は一切なく単なる平和友好条約に過ぎなかった。

 今回、両国は冷戦期の“旧条約”と同様に、全23項目からなる条文の中に軍事条項も盛り込んだ。特に第5条の「一方が武力侵攻を受けた場合、他方は国連憲章第51条と両国の法に準じて保有する全手段で軍事的やその他の援助を提供」(要約)は、集団的自衛権に関わる内容と見られ、注目に値する。

 仮に北朝鮮が米韓連合に攻撃されたら、ロシアが加勢できると解釈できそうだが、「自動参戦」、つまりNATO(北大西洋条約機構)が掲げる「加盟国への武力攻撃は、全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権に基づき兵力使用を含む行動を直ちにとる」(要約)とは、若干ニュアンスが違う。

「自動参戦すると断言していない点がミソで、アメリカとの全面衝突を嫌うロシア側の“逃げ”の姿勢もうかがえる」(軍事専門家)

 実際、ロシアと北朝鮮には相当の温度差がある。正恩氏はこの条約を「同盟」だと強調、集団的自衛権は当然と匂わすが、一方のプーチン氏は、「同盟」の言葉を使うことをあえて避けている様子。しかも「過去の条約と比べて新しいことはない」と、コメントも冷ややかだった。

北朝鮮を訪問して金正恩総書記の歓迎を受けたロシアのプーチン大統領(2024年6月19日)北朝鮮を訪問して金正恩総書記(右)の歓迎を受けたロシアのプーチン大統領(2024年6月19日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)