「タブーを一つずつ壊していくのがジャーナリズムだ」

田原:日米地位協定は大問題。日本は米軍に対して何も文句が言えない。米軍の犯罪を日本の警察が捜査する権利はない。実際に米軍兵が事件を起こしたけれど、日本の警察には捜査権がない。

 もう一つの大きな問題は、沖縄の基地。沖縄の県知事が普天間の移設をめぐって「最低でも県外にしてほしい」と言った。ところが、アメリカが勝手に「移設先は辺野古だ」と決めた。日米地位協定のもとでは、アメリカが決めたことを日本の総理大臣でもノーとは言えない。

 そこで、「日米地位協定を一部改定して、沖縄県民の願いを叶えよう」と僕は当時首相だった安倍さんに言った。安倍さんは「改定する」と約束した。

 ところが、3カ月後に、防衛省と外務省の事務次官がそれぞれ僕のところに来て「田原さん、今の日米地位協定のもとでは、沖縄の県民の願いは実現できない」「日米地位協定の改定は無理だ」と言った。なぜならば、アメリカが反対している。「日米地位協定を改定したら、アメリカが日米同盟を破棄する」「とてもできない」と説明された。

──田原さんが、「天皇の戦争責任問題」を朝生で扱いたいと提案した時のエピソードについて書かれています。改めて、なぜ「天皇の戦争責任問題」を番組で取り上げようと考えたのか、番組の企画会議でその提案をしてどうなったのか、教えてください。

田原:「冗談じゃない、馬鹿野郎!」「絶対ダメだ!」と当時の編成局長から反対された。天皇はタブーだからね。それで、表向き諦めて、ぜんぜん違うタイトルで番組を企画した。それで、番組が始まって「今日は本当に話したいことが他にある」「昭和天皇と戦争責任をやりたい」と切り出して、ゲストも入れ替えた。

 編成局長には翌日謝りに行った。約束と違うことをやった。新聞に書かれた番組のテーマとも違うことをやった。「申し訳なかった」と謝ったら、編成局長から「田原くん、大晦日にこのテーマでもう一回やって」と言われた。視聴率がやたら良かったんだね。

──「こんなテーマやって大丈夫か」で終わらなかったのですね。

田原:面白かったんだろうね。他局ではこんなことできないから。僕は一貫して他の局ができないことをやってきた。

──なぜ、タブーだった天皇の戦争責任問題を取り上げたのですか?

田原:タブーだからやりたい。タブーを一つずつ壊していくのがジャーナリズムだ。タブーをタブーのままにしていたら、戦時中と同じでしょ。

映画「原子力戦争」を制作した1977年当時の田原総一朗氏。タブーに切り込む姿勢は全く変わらない(写真:共同通信社)映画「原子力戦争」の原作者として名を連ねた1977年当時の田原総一朗氏。タブーに切り込む姿勢は全く変わらない(写真:共同通信社)

──朝生では、全くジャニーズの性加害問題を取り上げてきませんでした。テレビ朝日がジャニーズとベッタリだと言われているからこそ、番組でこの問題を扱うのが、田原さんのタブーなきジャーナリズムと言論の筋だと思うのですが、なぜこの問題を扱うことを避けてきたのでしょうか?

田原:そこには単純な理由がある。僕は芸能界に興味がなかった。政治の世界には興味があるけれど、芸能界には興味がなかった。今反省しています。テレビ朝日がジャニーズを応援していたからこのテーマを取り上げなかったのではなく、僕が芸能界に興味がなかった。

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長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。