防衛費倍増がなければ日米同盟はどうなる?

──しかし、それで解決ではないですよね。「日米安保における日本の主体性」が田原さんの追いかける重要なテーマになったとも書かれています。

田原:宮澤さんの時に、日本の安全保障は全面的にアメリカに任せると決めた。アメリカがダントツに強かったから、世界の平和を守るのがアメリカの役割だった。これがパクス・アメリカーナ(超大国アメリカによる覇権)。

 ところが、やがてアメリカの経済が傾いてきたので、アメリカだけでパクス・アメリカーナを維持するのは無理だという話になってきた。そこで、バイデン政権は日本に「パクス・アメリカーナに協力しろ」と言う。もはや、日本の安全保障を全部アメリカに委ねるわけにいかなくなった。

 では、日本は主体的な安全保障をどう構築したらいいのか。これが今の大課題だが、与党も野党もこの問題から逃げている。

──岸田政権は防衛費を2027年度に11兆円に大幅に増加すると決断しました。

田原:あれこそアメリカが日本に協力を求めた結果で、もし日本がこの要求に応じなければ「日米同盟を破棄するぞ」と言っている。だから防衛費が倍増した。日米同盟を破棄したら、日本の防衛費は3倍にも4倍にもなる。日米同盟があるから、アメリカの核の傘に日本は守られている。

──田原さんは集団的自衛権行使容認を支持しました。この本の中では「日米安保における片務性の歪みを解消し、双務性へ一歩進むことが日米関係をより対等化し、日本の主体性を回復させることにつながる」と書いています。

田原:小泉内閣の時に、元外務官僚の岡崎久彦さんと、政治学者の北岡伸一さんが僕のところに来て「田原さん、困ったことになった」「東西冷戦が終わった」と言った。僕が「冷戦が終わるのはいいことじゃないか」と返したら「いや、困るんだ」と言う。

 彼らの言わんとすることはこうだ。

 冷静時代に、日本には極東防衛の役割があった。だから、日本が攻められたら、アメリカが戦う。でも、アメリカが攻められても、日本は何もしない。これで良かった。だけど、「もうそれではダメだ」とアメリカから言われた。「アメリカが攻められたら日本も戦え」と言われた。そうしないと日米同盟が持続しない。

 そこで、安倍さんは集団的自衛権を認めた。そうしたら、朝日新聞と毎日新聞が「憲法違反だ、反対!」と言った。僕は、当時の朝日新聞の主筆だった船橋洋一さんと、毎日新聞の特別編集委員だった岩見隆夫さんのもとを訪れて「反対するなら日米同盟はやめていいのか」「防衛費は何倍にもなり、核も持たなければならなくなる」「本当にそれでいいのか?」と問うた。

 そうしたら、彼らは「田原さんの言うことには100%賛成だが、今さら、主張を変えるわけにはいかない」「勘弁してくれ」と言った。以来、朝日も毎日も「集団的自衛権は憲法違反」とは言わなくなった。

──本書の中では、日米地位協定に関しても語られています。