2枚目は、京都の無形文化を中心に伝統工芸内の関係と危機を表したネットワーク図である。細かな説明は避けるが、工程、道具、素材に分けられており、それぞれ円の大きさで消滅の危機度がわかるようになっている(円が大きいほど危機に瀕している)。そして、それぞれの工芸品が具体的にどの無形文化に紐づいているかがわかる。
例えば、尺八を例にとると、職人は京都市内で2名、全国でも数名ということなので、工程は全体的に大きめの円にした。道具も、やすりやガリ棒という道具が手に入りづらくなっており(昔はもっと尺八職人がいたため専門の道具屋がいたが、今は師匠から受け継いだ道具を大事に利用しているそうだ)、また、原材料の竹はまっすぐな竹が手に入らず、職人さん自らが竹林で材料になりそうな竹を探しているそうだ。今後はそうした背景情報を組み込むことでより充実した資料になると思う。
この相関図によって、異なる品目で共通の素材が不足していることがわかれば、横の連携が可能になるかもしれない。例えばそうした活用を期待している。また、日本の大手企業を中心に、金銭的な寄付ではない形での社会貢献活動が可能かもしれない。
浮かび上がる2つの京都像
こうして、伝統工芸の産業構造を俯瞰し、また、職人さんともじっくり語らう時間を経て、京都の奥深さをほんの少しだけ体感したわけだが、調査を通じて一番の発見は、GlobalとLocalの両方の要素を持つ京都という都市の魅力である。
言わずもがな、平安京遷都以降約1000年もの間首都であり続け、政治・経済・文化の中心地であったこの地は、日本の古典文化の中枢として栄える一方で、東アジアの重要な国際交易都市の一つでもあった。そして、当時世界最先端の技術や文化がまず京都に流れ込み、咀嚼されて京都の文化の一部となり、その後、日本の各地へと流れ込み小京都と呼ばれる景観や文化を生み出していった。
その名残からか、現在でも京都には古いものだけではなく新しいものが集まる。和食に限らず、フレンチや中華など、外国の料理屋さんも数多くあり、しかもおいしい店が多い。街中にはカフェが多くあり、コーヒーとパンの消費量や消費額が1世帯当たりで日本一という統計もある。
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