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岸田文雄首相がウクライナを訪問した際に持参したのは宮島名物のしゃもじだった(時事通信フォト)

(文:徳永勇樹)

コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、グローバルなサプライチェーンの見直しが進んでいる。そこでは経済合理性の追求と国家安全保障のせめぎ合いが生じるが、一見するとドメスティックな伝統工芸品も、根底にはこれと通じる問題を抱えている。

 2023年5月、広島県で開催されたG7サミットはまだ記憶に新しい。日本は広島サミットの議長国として、また、唯一の戦争被爆国として、G7加盟国に加え韓国やインド等8つの招待国と7つの国際機関を招いた。直前まで調整が続いたウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領のゲスト参加も実現するなど、サミットの主催は日本政府にとって大きな成果となった。

 筆者はG7の公式エンゲージメントグループであるY7(Youth7)に2016年以来参画し、39歳以下の若者の視点から政府への政策提言に関わっている。今年も運営メンバーの一員として、東京と広島で開催されたY7サミットの運営に関わった。私の祖父が長崎で原爆を体験したこともあり、被爆地開催のサミットには特別の思いがあった。が、今回はサミットの話についてはここまで。本稿の主題に移るにはサミット開催の数カ月前に遡る。

 2023年3月21日、岸田文雄首相がウクライナを電撃訪問した。憲法上の制約で武器の支援を行えない日本としてウクライナにどのような支援を行うかが注目される中、キーウ入りした岸田首相が持参したのは、地元広島県宮島の特産品であるしゃもじだった。しゃもじは、「飯を取る」から、「(相手を)めしとる」という意味の縁起物とされ、広島代表の甲子園球児への応援には不可欠なものだが、日本から遠く離れたウクライナ人、しかも、生きるか死ぬかの戦いをしている相手に、文脈の伝わりづらい品物を贈る行為については、日本国内で賛否両論があった(現地では概ね好意的に受け止められたようだが)。

 筆者は会社勤務の傍ら、CulpediaというNGO団体を立ち上げ、日本の工芸の調査をライフワークに活動をしている。最近は主に京都の伝統工芸品に関心を寄せており、京都市が指定する74品目を作る職人や組合を一軒一軒訪ね歩いている。そうした経緯もあり、この報道を見た時に宮島のしゃもじに関心を持ち、すぐにインターネットで広島県のHPを調べてみた。

消えゆく職人、道具、原材料

 日本の伝統工芸品は、経済産業省が指定するもの(国指定伝統的工芸品/全国に240種類)と、都道府県や市町村等の地方自治体が指定するもの(自治体指定伝統工芸品)に分かれている。広島県の場合、しゃもじ(宮島細工)を含む国指定工芸品5品目、県指定工芸品7品目の計12品目が登録されている。他にも、指定から外れてはいるが、国内生産の9割を占める針など、広島には長く豊かな歴史を感じさせる工芸が残る。

 ところが、他の関連ページを閲覧していると、広島県が指定する伝統工芸品は9品目、との記載が何度か登場することに気づいた。7品目か、9品目か、どちらが正しいのか。県HPに戻って詳細を確認したところ、広島県指定工芸のうち、かもじと打刃物の2品目が指定解除となっていた。

 理由が気になり広島県庁に連絡をしてみると、後継者不足により職人がいなくなり作れなくなったという。華々しい国際会議の足元で、何百年単位で続いた地域文化が徐々に失われつつある現状に改めて気づかされた。

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