(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)
岸田文雄首相がウクライナの首都キーウを訪れたのは、3月21日のことだった。これをメディアは「電撃訪問」と伝えているが、いったいこの訪問のどこが「電撃」であったり、「秘密裏」であったりするのか、首を傾げたくなるどころか、その報道姿勢はむしろ噴飯物だ。
ポーランドに駅になぜ日本のメディアが事前に待機できたのか
岸田首相は、訪問先のインドから民間のチャーター機でウクライナの隣国のポーランドのジェシュフの空港に入り、そこから国境に近いプシェミシル駅に車で移動すると、列車でウクライナに入った。米国のバイデン大統領が2月に訪問した時と同じ経路だったという。
ところが、NHKではこのプシェミシル駅で列車に乗り込む岸田首相の姿を、ホームのフェンス越しに撮影して、速報で報じていた。一緒に列車に運び込まれた「うまい棒」のロゴの入ったダンボール箱が、SNSで話題になったほどだ。
諸外国の要人警護であれば、あんな場所で承諾もなくカメラを構えただけで、即射殺されてもおかしくはない。そうでなくても、撤去を求められる。
かつて、それこそウクライナの首都キーウで、大統領が出席する式典会場の広場を望むホテルに滞在していたら、当日の朝にSPが部屋にやって来て室内をチェックしたあと、窓際に立つな、カメラを構えでもしたらライフルのスコープと見なして射殺する、と警告されたことがある。
NHK以外にも数人のカメラマンが並んでいたから、事前に岸田首相のウクライナ訪問の情報はルートと時刻までが漏れ伝わり、これを首相側も容認していたはずだ。そうでなければ、日本の首相は要人として扱われていなかったことになる。