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9月に行われたロシア統一地方選挙、ドネツク州での投票のようす(写真:ロイター/アフロ)

(文:名越健郎)

ロシア統一地方選は与党系候補が全勝、昨年までの番狂わせや混乱は皆無だった。電子投票を選挙結果の偽造に使い、選挙監視システムを解体し、戦争を選挙の争点から徹底して排除するなどで「官製選挙」化は一層進んだと、ロシアのリベラル系メディアや政治学者は指摘する。来年の大統領選挙も政権による対立候補の吟味が進み、「プーチン圧勝」の環境は整いつつあるようだ。

 2024年3月17日のロシア大統領選まで半年を切り、ロシア政局の焦点は大統領選の動向に移る。ウラジーミル・プーチン大統領は5選を目指す構えで、年内に出馬表明し、クレムリンは過去最高の得票率で圧勝を狙うと伝えられる。

 8月23日の航空機事故でエフゲニー・プリゴジン氏ら民間軍事会社「ワグネル」幹部らが殺害され、不測の事態につながる「ワイルド・カード」が一掃された。9月8~10日の統一地方選も、与党が勝利する「無風選挙」だった。

 プーチン氏は大統領選勝利を経て、ロシア・ウクライナ戦争を長期戦に持ち込み、ウクライナや欧米諸国の疲弊を待つ構えだ。内政や戦況でサプライズがない限り、プーチン続投は揺らぎそうにない。

「官製選挙」徹底に電子投票システムを利用

 大統領選の前哨戦とされた統一地方選は、21の知事・首長選で与党「統一ロシア」候補19人など現職が全勝した。地方議会選では、2地域を除いて、与党候補が7割の議席を占めた。政権側が強引に実施したウクライナ東部・南部4州の議会選は、政党名を選ぶ投票となり、統一ロシアの得票率は、ドネツク州(76%)、ルハンシク州(72%)、ザポリージャ州(66%)、ヘルソン州(63%)だった。

 昨年までの統一地方選では、大都市部や極東で与党候補が敗北することもあり、昨年は地方議員が反戦を訴える共同アピールを発表したが、今回は番狂わせや混乱はなかった。

 リベラル系の「モスクワ・タイムズ」紙(9月13日)は、「クレムリンは選挙結果を操作し、投票率を上げるため、電子投票システムを使用した。投票用紙の水増しや企業・組織の投票強要など、より粗暴な手段を混在させた。例年、与党候補は無所属で出馬するケースがあったが、今回はモスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長らも与党から出馬した」と指摘した。

 政権側はロシア・ウクライナ戦争を統一地方選の争点にしなかった。独立系メディア「メドゥーザ」(9月13日)は、「候補者らは選挙戦を通じ、ウクライナ侵攻にほとんど触れなかった。与党の知事や議員の大半は演説やSNSで戦争に言及せず、経済の安定や開発問題を取り上げた。モスクワは反戦意識が最も強い都市だが、ソビャーニン市長は戦争の話題を極力避けた」と伝えた。

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