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江蘇省蘇州市を視察した習近平主席(2023年7月、写真:新華社/アフロ)

 若者の失業率が過去最悪を更新している中国で、その最高指導者の習近平は最近、次のような言葉を発表した。「祖国と人民が最も必要としている場所で光と熱を発せよ、さすれば悔い無き青春の記憶を残せる……」。若者たちが冷笑したことは想像できるが、目の前の現実とかけ離れたこの文革時代の輝ける記憶も、間違いなく習近平体制の行動原理の一部なのだ。

 そもそも習近平とは誰なのか、その思想と権威は何を求め、何を恐れているのだろうか。体制の外交が抱える米中対立の火種は、いずれ全面衝突へと向かうのか――。対中外交の最前線を熟知する元駐中国特命全権大使・宮本雄二氏の近著『2035年の中国 習近平路線は生き残るか』(新潮新書)から、東京大学法学部の高原明生教授(現代東アジア政治)が中国を理解するための「思考の枠組み」を紹介する。

(文:高原明生)

 今や、どこのどういう立場で仕事をしているとしても、中国の動向から目を離すことはできない。習近平政権と中国の行方が世界に大きな影響を及ぼすことは間違いない。しかし、相変わらず中国政治の奥の院は分厚い帳に閉ざされている。昨年の党大会閉幕式での胡錦濤前総書記の途中退席や、今般の秦剛外相の突然の更迭が明瞭に示すのは、相変わらずの中国の不透明性にほかならない。

 日中国交正常化から50年以上が経ったが、国民の間の相互理解はどれほど進んだと言えるだろうか。昨今の日本では、中国を批判し、その否定的な面をあげつらうことを目的にしたような本が書店に多く並んでいる。インターネット上でも読むに堪えない感情的な議論が横行する。こうした知的状況下で、果たして国民の代表である国会議員は正しい政策方針を議論し、決定することができるだろうか。

 このような時代に頼りになるのは、その道一筋のプロフェッショナルだ。宮本雄二氏は、長年にわたり対中外交の最前線で活躍した経験をもとに、中国および日中関係に関する深く、かつ冷静な解説を世の中に向けて発信し続けている。私のような研究者を含め、日本社会はそれから大いに裨益してきた。

 もちろん、習近平政権下の中国は政治面でも経済面でも大きな変貌を遂げた。過去の中国に関する知識、いわば中国専門家の常識が通用しなくなっている面も確かに多い。だが宮本氏の優れた点は、思考を続け、外交の現場で練り上げられてきた中国理解のための「脳内ソフト」を新しい情報を加味しながら修正し、精緻化してきた点にある。

根本的に重要なのは「人物」の理解

 著者は本書において、第3期に突入した習近平政権が直面し、今後の中国を理解する上で鍵となる諸問題を余すところなく取り上げて俎上に載せている。新書にもかかわらず、内容は包括的で掛け値なく読み応えがある。

 そもそも習近平とは誰か、どのような人物なのか。習近平という、ほとんど独裁的と言える程の権威と権力を獲得した指導者を理解することが、中国の行方を探る上では根本的に重要な課題であることは間違いない。

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