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バーニャはロシア人の心の故郷だ(写真はすべて筆者提供)

(文:徳永勇樹)

ここ数年、日本ではサウナブームが続いている。ロシアにも伝統的なサウナ文化があり、なんと正しい入り方を学ぶための学校まで存在する。日本人の筆者がロシアの「サウナ合宿」に参加して見たものとは――。

「バーニャ学校の合宿があるのですが、行ってみませんか?」

 2021年5月、モスクワを短期訪問中の筆者に声をかけてくれたのは、日本でロシアのバーニャ文化を広めようと努力するバーニャジャパン株式会社の根畑陽一・代表取締役社長だった。バーニャとはロシア式のサウナのこと。日本ではサウナというとフィンランドのイメージが強いかもしれない。しかし、ロシアにもフィンランドに劣らないサウナ文化があり、その楽しみ方を学ぶ学校まで存在するのである。

 バーニャ合宿の費用は二泊三日で2万2000ルーブル(約3万5000円)だという。日本人にとっては目が飛び出るほどの値段という訳ではないが、ロシア(特に地方都市)の給料水準で考えると、モスクワまでの交通費も含めれば人によっては給料1カ月分に相当する。決して安い授業料ではないにもかかわらず、首都モスクワだけでなくロシア全土から、場合によっては海外からもわざわざ学びにやってくるそうだ。

 いったい誰がどんなモチベーションで、そんな大金をかけてやってくるのか、俄然興味を持った。筆者も日本にいるときにはサウナをよく利用していたが、入り方を他人に学んだことなどない。せっかくの機会だからと、その合宿に参加してみることにした。

 5月中旬のある日の夕方17時。根畑氏と私はモスクワ市中心部から南へ150キロの学校を目指すタクシーの車内にいた。同乗者はロシア中部から参加したセルゲイさん、北極圏ヤマル・ネネツ自治管区出身のアレクサンドル氏。彼らもまた、今回の合宿に参加するためだけにロシアの地方都市から飛行機でやってきたのだという。モスクワ市内の渋滞にはまりながら約3時間半かけて学校に到着した。モスクワ州内とは思えないほど空気が綺麗で、静かだ。周囲には教会と東屋しか見当たらず、19世紀のロシアの雰囲気を色濃く残す、田舎の風景が目の前に広がっていた。

 出迎えてくれたのはアシスタントのマリーナさん。彼女も数年前にバーニャの魅力に取り憑かれ、この学校の職員となったという。建物の中に入ると、大変なごちそうが待っていた。「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉があるが、バーニャは人間が心身ともに健康になるための過程だ。だから、近くで取れた野菜や果物、また自家養蜂で取れた蜂蜜をふんだんに出してくれるのだという。贅沢な夕食に舌鼓をうって、合宿1日目は終わった。

合宿中の食事風景。手前がマリーナさん

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