まだ夫婦になるとは思えない「藤原宣孝とまひろ」の関係

 一方、まひろ(紫式部)はといえば、まだ結婚相手が決まっておらず、父の為時からも「一つ聞いてもよいか。お前の夫を持たぬという強い気持ちは分かった。だが、その真意はどこにあるのだ?」と聞かれるほどだった。そんなまひろの婿入りをやたらと気にかけているのが、父・為時の同僚である藤原宣孝(のぶたか)だ。

 ドラマでは、宣孝がやたらと派手な衣装を着て現れた。「御岳詣にその姿で行かれたのか……」と為時からあきれられても、「御岳詣には大勢の人が来るゆえ、派手なみなりでないと、神様の目に止まらんと思うてな」と、どこ吹く風。まひろは「よくお似合いでございます」とニコニコしている。この2人が夫婦になるとは、まだその兆しすら感じられない。

 お参りにもかかわらず、派手な衣装を着る宣孝。このシーンは、清少納言が『枕草子』で書いた文章が元になっている。『枕草子』によると、高貴な人でも粗末な格好でお参りする習慣について、宣孝は「つまらない慣習だ」(「あぢきなきことなり」)とバッサリ。こう続けたという。

「ただきよき衣を着て詣でむに、なでふことかあらむ。かならずよも、『あやしうて詣でよ』と、御嶽さらにのたまはじ」
(ただ清潔な衣を着てお参りするのに、どれほどのことがあろうか。御嶽山の蔵王権現は、まさか、粗末な身なりで参詣せよ、なんて言っていないだろう)

 この文のあとに、周囲のあきれる様子を描きながら、清少納言は宣孝の服装をいじり倒している。紫式部が『紫式部日記』で清少納言のことを辛辣に書いていることは有名だが、『枕草子』で夫が批判されたことへの怒りがあったのではないか、と言われている。

 ドラマでは、まひろがどのように宣孝と結婚することになるのだろうか。清少納言に夫の悪口を書かれて怒るほどの愛情を注ぐようになるプロセスにも期待したいところだ。

 それぞれの人物がたどる運命は明らかになっている大河ドラマだからこその楽しみが、『光る君へ』にはたくさん詰められているように思う。

 次回「星落ちてなお」では、兼家は後継者として長男の道隆を指名して逝去。まもなく兼家が亡くなると、道隆が独裁を振るうようになる。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『敗者たちの平安王朝』(倉本一宏著、KADOKAWA)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など。