浄土真宗本願寺派の本山、西本願寺の執行長(しゅぎょうちょう)を務める安永雄彦氏が、「会社と自分」をテーマに『何度でもリセット〜元コンサル僧侶が教える「会社軸」から「自分軸」へ転換するマインドセット〜』を出版した。銀行員として21年、経営コンサルティング会社社長として15年のキャリアを経て、西本願寺の事務方トップに転じた異色の経歴を持つ安永氏が、このほど築地本願寺でビジネスパーソン向けに講演会を開いた。ゲストとして参加した作家・ジャーナリストの鵜飼秀徳(浄土宗正覚寺住職)を相手に安永氏が語ったこととは…(全2回の1回目、文中敬称略)
司会:中山景=KOK(コウケイ)株式会社 代表取締役
構成:宮本恵理子=フリーランスエディター・ライター
日本のすべての人が無関係ではいられない「下り坂の歩き方」
――新著『何度でもリセット』で示されているのは「下り坂の時代をいかに生きるか」という命題です。なぜ今このタイミングで、このテーマで本を書こうと考えたのでしょうか。
安永雄彦(西本願寺執行長、グロービス経営大学院教授、以下は安永):私は昭和29(1954)年の生まれでして、右肩上がりの高度経済成長社会で育った世代です。大学を出たときも企業に入ったときも、世の中はずっと発展し上昇し続けるものだと信じて疑わずにおりました。しかしながら、1990年代以降は経済の停滞期に突入し、以後30年にわたって「減少」の時代に転じたのです。
バブル崩壊後の経済縮小に人口減少も加わって、何もかもが縮小均衡へと向かい、今に至ります。日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新したというニュースもありますが、私たちの生活に“上向き”の実感を伴うには至っておりません。
上り坂で頂上を目指すときには目的が明確ですので、どんなにつらくてもなんとか乗り切れるものですが、逆に下に向かって降りるときには非常に難しい。一気に降りると膝を壊しますし、寄り道が過ぎると時間がかかり過ぎてしまう。そもそも目的地が一つではない。実際の登山でも、遭難が多いのは下山の行程だと聞きますよね。
日本社会で暮らす人のすべてが無関係ではいられない「下り坂の歩き方」について心得るべきこととはなんなのか、自分自身の経験を振り返りながら目安となる指針をお伝えしたいと考えたのが、この本を書こうと思った動機です。