一般教書演説を行うバイデン大統領。後ろはカマラ・ハリス上院議長(左、副大統領)とマイク・ジョンソン下院議長(3月7日、写真:AP/アフロ)

失語なし、エネルギッシュに熱弁1時間余

 ジョー・バイデン米大統領(81)は3月7日の一般教書演説で、自由と民主主義を重視する姿勢を鮮明にする一方、「私の前任者(ドナルド・トランプ前大統領=77)の憎悪をあおる政治姿勢」と対決すると熱弁を振るった。

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 大統領が連邦議会両院の議員を対象に行う演説で、国の現状 についての大統領の見解を述べ、主要な政治課題を説明する三大教書(一般教書、予算教書、経済教書)の一つ。

 だが、スーパーチューズデーで代議員獲得数ではトランプ氏との一騎打ちが事実上決まり、この夜のスピーチはテレビ中継されることもあって、さながら全米向けキャンペーン演説となった。

 むろん米国民の関心事であるインフレ、経済、不法移民、人工中絶、ウクライナ情勢、イスラエル・ハマス紛争、中国などへの取り組みについて網羅したが、最大関心事はバイデン氏の高齢問題だ。

 テレビ画面に映るバイデン氏の顔色、表情、読み間違いや失語があるか、壇上に上がるステップで躓きはしないか、米国民は文字通り同氏の一挙手一投足に注目した。

 今や有権者の73%が「(大統領に再選するには)年取りすぎている」と答えている。民主党内部にも同氏に代わる候補者を立てるべきだといった声も上がっている。

 この夜の一般教書演説はバイデン氏にとっては国民、党内外に向け、ボールを打ち返す絶好のチャンス。

 リスク覚悟の見せ場だった。

 演説後のテレビ・コメンテーターの採点は総じて「エネルギッシュで年齢を感じさせぬ迫力ある演説」。大成功だった。

 バイデン氏は「高齢問題」に触れたくだりでこう語気を強めた。

「もし諸兄が私の年齢になった時、実感するのは物事が今までよりもクリアに見えてくるということだ」

「今、問題にすべきことは歳をとっているということではなく、その人間の考え方が古いかどうかということだ」

「私が今考えていることは、いかにしたらこの地球の未来を守り、米国を気候変動危機や銃による暴力行為から救うかだ。今の政治は若者たちのためにあることを忘れてはならない」

 まさに自らの高齢に対する批判を逆手に取り、「亀の甲より 年の劫 (こう)」で切り返したのである。

 人間は、加齢に伴って頭の回転が遅くなるという「弱み」を経験する。だが、その一方で長年の経験を通じて知識が蓄積され、人生で遭遇する様々な問題に適切に対処できる「強み」が育まれる

だから高齢を理由に大統領としての能力が私にはないなどと言うのは暴論だ」という論法に出たのだ。

 ワシントン政界通の一人、G氏はこうコメントする。

「むろん、これで高齢問題を封じ込めたわけでないが、エネルギッシュなパフォーマンスと共に、満を持した反論はメディアや政界すずめを一時的に黙らせたことだけは間違いない」