快調に獲得代議員数を伸ばしている2人だが、本当に大統領選に立候補するのだろうか(2024年1月撮影、写真:AP/アフロ)

トランプは必要代議員数1215まであと231

 米民主、共和両党大統領候補指名に必要な代議員数の3割強を一挙に獲得できるスーパー・チューズデー(16州で同日予備選が行われる)が4日後の3月5日に迫った。

 7日前に行われたミシガン州の民主党予備選までにジョー・バイデン大統領、ドナルド・トランプ前大統領が獲得した代議員数はそれぞれ178人、110人。

 指名獲得に必要な代議員数までにはまだほど遠いが、スーパー・チューズデーで一気に3桁、4桁加算される。

          獲得数 S・Tuesday 必要な獲得数

バイデン 178   1420      1968

トランプ 110    874       1215

 トランプ氏は対抗馬のニッキー・ヘイリー元国連大使を寄せ付けず、「常勝」候補だ。

 一方のバイデン氏も、米国民の7割が高齢を理由に「再選反対」を唱えているにもかかわらず「トランプが出る以上俺は出る」と老いの一徹。

 有力な対抗馬は出たいのに出ず、バイデン氏は「不戦勝」で白星を積み上げている。

 ところが、ミシガン州民主党予備選で「異変」が起こった。

 バイデン氏が投票率81.6%で勝利したものの、白票に当たる「支持者なし」(Uncommitted)の票が13.6%に達したのだ。

 同州全人口の4.7%を占めるアラブ系有権者らが「下剋上」を突きつけたのだ。

 バイデン氏の対イスラエル軍事支援への抗議票で、パレスチナ自治区ガザ情勢に対するイスラエル寄りで優柔不断なバイデン氏の政策に憤りをぶつけたものだ。

(デトロイト近郊にアラブ系が多いのは、フォード関連工場が中東や北アフリカからアラブ系移民を低賃金労働者として採用、それがマグネットとなり、大量のアラブ系民が住み着いた。現在ではモスクやアラブ系教育機関がたち並び、市長、市議会議員も出ている)

 アラブ系有権者たちは、ガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスによるイスラエル侵攻以降、これに反撃するイスラエル軍の無差別攻撃を「ジェノサイド」とみなし、戦闘の停止を要求した。

 バイデン政権による仲介を強く求めてきた。

 こうした要求をバイデン氏が受け入れない限り、予備選ではバイデン氏に投票しないことを行動で示したのである。

 有権者が、予備選に具体的な「外交問題」を持ち込み、政権与党のトップに注文を付けるのは、ベトナム戦争時の大統領選挙以来かもしれない。

 長年、大統領選を取材してきた主要紙のコラムニストは、こう述べた。

これまで政官財界を牛耳ってきたユダヤ系主導の米国の親イスラエル路線に、非白人アラブ系が盾突き、大統領選に『外交』を持ち出したこと自体、この国がすでに白人多数国家ではなくなってきた証左だ」

「その意味で結果はともかくとして画期的な出来事だ」

 音頭をとったのは、同州選出のパレスチナ系ラシダ・タライブ下院議員(女性=47)。

 選挙区に住むアラブ系有権者の声を救い上げ、「Listen to Michigan」(ミシガンの声に耳を傾けよ)運動を展開。

 これに非アラブ系の白人や黒人の学生も参加し、当初の目標をはるかに超える13万票の抗議票を集めた。

washingtonpost.com/uncommitted-vote-michigan-ignites-democratic-debate

thedailybeast.com/dems-bet-a-vote-against-biden-in-michigan-now-will-move-him-on-israel-and-save-him-later

 米メディアは「バイデンに対するストレス・テスト」「スピン予選」と書き立てた。

 だが、一部政治学者の中には矮小化する向きもないではない。

「数字的に見てもドラマティックな結論を出すには至っていない」(ボストン・カレッジのデイビッド・ホーキンス教授)

「アラブ系が本選挙で共和党に投票することはないだろうし、アラブ系全体から見れば微々たる数字だ」(ミシガン州立大学のマット・グロスマン教授)