後を絶たない不正の指摘

 3月の大統領選で勝利が確実視されるプーチン氏ですが、単なる勝利では満足せず、80%以上の得票率を目標にしていると言われます。前回を上回る勢いで圧勝すれば、ウクライナ戦争の継続を目指すプーチン政権はロシア国民から強い承認を得たことになるとの考えからです。2022年にロシアから戦端を切ったウクライナ戦争は、今も終わりが見えません。

 ロシア国内では政府によるメディア規制が厳しく、戦争反対の声は表立って拡大していませんが、戦地へ行って帰ってこない家族を心配する声は国内各地で広がっています。大統領選に立候補できなかった陣営は、こうした国民の不満を受け止めてプーチン氏に対抗する構えでした。

 また、昨年6月にはウクライナ戦争に参加していたロシアの民間軍事会社「ワグネル」のリーダーが政府を批判して反乱を起こしました。国際刑事裁判所(ICC)はプーチン氏に戦争犯罪の容疑で逮捕状を出しています。ウクライナ戦争に関する支持がどれほどあるのか。プーチン氏は大統領選を通じて、その国民の判断も把握したいところでしょう。

「選挙不正」も気になるところです。大統領選をめぐる不正の疑いが以前から消えないのです。プーチン氏はこれまで高い得票率で勝利してきましたが、投票の現場では不正が行われているという指摘が後を断ちません。過去には「奇妙な一団がバスに乗って複数の投票所を巡回し、投票していた」という証言もありました。投票所で投票管理者が大量の票の束を投票箱に押し込んでいる映像が流れたこともあります。
 
 欧州安全保障協力機構(OSCE)は2018年の大統領選に選挙監視団を派遣しました。そのときは「集会、結社、表現の自由と候補者登録の制約が政治参加の余地を狭め、純粋な競争を失わせた」と報告されています。連邦議会の選挙や地方選も含めてロシアの選挙そのものに、欧米などの諸外国は厳しい目を向けているのです。

 3月の選挙でプーチン氏が圧勝した場合、ウクライナ戦争ではさらに強硬策を取ると予想されています。ロシアとの間に北方領土問題やサハリンのエネルギー開発事業などを抱える日本も、厳しい対応を迫られることは間違いありません。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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