「春闘」が本番を迎えようとしています。労働組合が結束して経営側に賃上げなどを求める春季恒例の交渉。すでに70年近い歴史を持つ春闘は今年、どの程度の賃上げを実現できるのでしょうか。日本独特と言われる「春闘」方式。過去の歴史と役割も交え、やさしく解説します。
物価上昇を上回る賃上げなるか?
物価上昇を上回る賃上げなるか。これが今年の春闘の最大テーマです。2月11日のNHK番組「日曜討論」では、キーパーソンの3人が出演し、それぞれの持論を展開しました。
日本の労働組合を束ねる「連合」(日本労働組合総連合会)の芳野友子会長は「物価高が続き、実質賃金はマイナスが続いている。(今春は)2023年を上回る賃上げの水準を」と強調し、昨年は「5%程度」だった賃上げ目標を今年は「5%以上」として交渉に臨む姿勢を示しました。さらに「中小や小規模事業者、非正規雇用労働者の底上げをどのくらいできるかに焦点を置く」とも述べました。
一方、経営側を代表する経団連(日本経済団体連合会)の十倉雅和会長(住友化学会長)は「賃上げは企業の社会的責務」とした上で、各企業の経営者に対し、「昨年を上回る熱量と決意で(賃上げの実現を)呼び掛けている。物価上昇を上回るベースアップで応えていく」としました。
政府側からは、新藤義孝・機材再生担当大臣が番組に出席し、「30年ぶりに経済を好調にさせるチャンスを迎えている。何としても(経済の再生を)ものにし、次のステージに行かなければならない。その前提が賃上げ。政策を総動員して春闘を最大限に応援したい」と語りました。
この3者がそろって「物価上昇を上回る賃上げの実現」を強調する背景には、国民の間で日々の暮らしが深刻さを増している事情があります。厚生労働省が2月初旬に発表した毎月勤労統計調査の2023年分(速報値、5人以上の事業所・全国3万余り)によると、基本給に残業代やボーナスを加えた1人あたりの「名目賃金」は月平均で32万9859円となりました。前年比1.2%増で、伸び率のプラスは3年連続。フルタイムもパートタイムも過去最高でした。基本給を軸とした所定内給与は、リーマン・ショック前の2005年の水準にまで回復しています。
ところが物価上昇を加味すると、結果は賃金上昇とは言えませんでした。2023年の1人あたりの「実質賃金」は前年比2.5%減。マイナスは2年連続でした。2020年を100とした指数で見ると、2023年は97.1。同じ条件で統計を比較できる1999年以降では最低の水準です。
こうした事態を引き起こしているのは、物価上昇です。とくに最近の日本経済は円安による負の影響が強まり、インフレ傾向が止まりません。2023年の物価上昇率は3.8%で、実に42年ぶりの高水準でした。少々の賃上げではカバーできそうもない状況なのです。長い歴史を持つ春闘はこの傾向に歯止めを掛け、実質的な賃上げを達成できるのでしょうか。