「袴田事件」では2023年3月、東京高裁が再審開始認めた(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

最近、「冤罪」に関するニュースがしばしば流れてきます。一家4人を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑判決が確定しながら、無実を叫び続け、遂に再審公判(裁判のやり直し)が始まった袴田事件。犯罪が何もないのに警視庁公安部の捜査員によって事件がでっち上げられた大川原化工機事件。その他、痴漢冤罪もよくニュースになります。間違った捜査と裁判で刑罰を受けることになった人には、どんな事態が待ち受けているのでしょうか。なぜ、冤罪は起きるのでしょうか。やさしく解説します。

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「自分の人生を返してほしい」

 かつて栃木県南部を震撼させた事件がありました。パチンコ店の駐車場で女児が誘拐され、近くの河川敷で遺体となって見つかった殺人・死体遺棄事件「足利事件」です。ところが、犯人として無期懲役の判決を受けて収監されていた菅家利和さんはその後、無実だったことが判明します。捜査段階でずさんなDNA鑑定が行われ、捜査員も自白を強要。裁判所もそれらの証拠を鵜呑みにしていたのです。2022年にヒットしたテレビドラマ「エルピス―希望、あるいは災い―」(カンテレ制作・フジテレビ系列)の題材にもなりました。

 40代で身柄を拘束された菅家さんは獄中から無罪を訴え、何度も再審を請求。その後、DNA捜査の誤りが決定的となって刑が停止され、保釈されました。そのときの記者会見で、菅家さんはこう言っています。

「私はやっていません。犯人ではありません。間違ったでは済まないんです。当時の警察官、検察官を絶対に許さない。私と亡くなった両親、世間の皆様に絶対に謝ってほしい。自分の人生を返してほしい」

 今から15年前の2009年のことでした。菅家さんは、このとき62歳。事件とは全く無関係なのに、人生の円熟期を塀の中で過ごす事態になってしまったのです。

 足利事件に象徴されるように、冤罪は終戦間もない混乱期のものではありません。現代においても信じられないような冤罪は度々起きています。その被害も甚大で、当事者の人生は大きく狂ってしまいます。

東京地裁は2023年12月、大川原化工機事件に関して違法の捜査性を認定し、国と東京都に賠償命令を下した(写真:つのだよしお/アフロ)

 2020年に起きた「大川原化工機事件」もそうでした。生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥機を無許可で中国に輸出したとして、東京の機械メーカー・大川原化工機の社長、常務、相談役の3人が逮捕・起訴。3人は無実を訴え、保釈を求め続けましたが、11カ月も身柄を拘束されたままでした。途中で病気を悪化させた相談役は、適切な治療も受けられないまま死亡しました。

 また、2003年に鹿児島県で起きた選挙違反事件「志布志事件」では、全体で6世帯しかいない集落の高齢者が相次いで逮捕・起訴。数カ月から1年以上という超長期の拘束が続き、取り調べ時の威嚇や調書のねつ造など違法捜査のオンパレードでした。その挙げ句、起訴された13人のうち1人が途中で死亡。残る12人は全員が無罪となったのです。