「疑わしきは被告人の利益に」
裁判所の姿勢も無視できません。刑事裁判には本来、「推定無罪」の原則があります。確実な証拠のない、「疑わしい」程度のレベルでは罪に問うことはできず、「疑わしきは被告人の利益に」という原則もあります。何より、日本国憲法第38条には以下のように明記されているのです(原文ママ)。
・何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
・強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
・何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
冤罪の防止に向けては、取り調べの状況を録音・録画する可視化も一部事件で行われるようになりました。それでも冤罪はなくなりません。日本弁護士連合会はまだ多くの冤罪事件があるとして、再審を速やかに開くことができるよう「再審法」の制定を求めていますが、実現のめどは立っていません。
米国では、1973年以降、8700人以上が死刑宣告を受け、1500人以上の死刑が執行されましたが、死刑宣告を受けた人のうち182人は無罪だったとされています(ナショナルジオグラフィック誌2021年3月号)。日本でも冤罪が疑われながら死刑が執行された「飯塚事件」などの事例があります。
冤罪で命が失われるようなことがあると、それこそ取り返しがつきません。しかし、問題の重大さを繰り返し指摘されているにもかかわらず、日本には冤罪の公的統計すら存在しないのです。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。