自白強要の「人質司法」
冤罪はなぜ起きるのでしょうか。大きな理由の1つが「人質司法」という捜査のあり方です。容疑を認めなかったり、供述を拒否したりする容疑者を人質のように長期間拘束し、自白を迫ることからこの呼び名が付きました。
逮捕された人物は起訴されるまで最長23日間身体を拘束されます。起訴されて「被告人」なった後も犯罪事実を認めない限り、簡単に保釈されません。志布志事件などがそうであったように、高齢や持病の悪化などを理由に保釈を求めても検察や裁判所は「口裏を合わせる恐れがある」として容易に保釈を認めないのです。逮捕から公判開始まで数カ月間、時には1年以上も拘置所や警察の留置施設から出ることができず、弁護士以外には接見できない状態で過ごさなければなりません。
この間、容疑者・被告人は密室状態となった取調室で、ひたすら自白を迫られます。「容疑を認めたら外に出られる」と言われながら、取調官から連日、威圧的な取り調べを受けるのです。机をたたく、椅子を蹴る、立たせて罵声を浴びせる、親族の名を書いた紙を踏ませる、虚偽の情報を伝えて混乱させる……。過去の冤罪を検証すると、こうした違法な取り調べが必ず存在していたことが分かります。捜査機関はこの手法を「容疑者の叩き割り」という隠語で呼んでいました。
無実なのに、なぜ関わってもいない重大犯罪を“自白”するのか。多くの人は疑問に思うかもしれません。しかし、長期の身体拘束や威圧的な取り調べで精神的に追い込まれると、少なくない人が「この状態から早く逃れたい」と思うようになり、虚偽自白します。精神の異常が進むと、意識がもうろうとし、幻覚・幻聴、無反応などの拘禁状態に陥ることも珍しくありません。そして捜査員の誘導質問などによって虚偽の自白調書が作成され、公判で有力な証拠にされてしまうのです。