耳心地よい「平和」の裏で起きたいくつかの出来事

 さまざまな価値観がうごめくこの世界で、「平和」ほど多くの人たちに支持される言葉はおそらくない。誰も否定しない、みんな大好きな「平和」。PEACE。PAZ。PACE。そんな耳心地がいい「平和」という言葉があふれるまちは、さぞかし居心地もいいはずなのだが、さてどうしてだろう。

 と思いながら、ここしばらく広島で起きた出来事を振り返ってみたとき、広島の言う、その「平和」とは一体何なんだろう、と首を傾げたくなる出来事が続いたことに気づく。

 まずは、広島市教委が、中沢啓治さんの『はだしのゲン』を、小学生の平和学習教材から削除したこと。中学校の教材からは、アメリカの核実験によって太平洋を航行中の日本のマグロ漁船と乗組員が被曝を余儀なくされた第五福竜丸事件(1954年)の記述を削除した。

 続いて、広島開催のG7サミット(2023年5月開催)。核保有国など主要7カ国と欧州連合が一堂に会し、「広島ビジョン」の名の下、核抑止力を肯定する内容の共同声明を発出した。「核兵器廃絶」と長年訴えてきたまちから、核兵器の役割を肯定的に位置付けた内容のメッセージが発信されたことになる。

 さらには、広島市の平和記念公園と米真珠湾のパールハーバー国立施設との間の姉妹公園協定。協定の意義を説明する市の幹部が米国による原爆投下責任の論議を「棚上げにする」と議会で発言し、物議を醸したことは以前ここにも記した。核兵器によって殺された人々は、市のこの姿勢をどう受け止めるか。

 原爆ドーム 原爆ドーム(写真:beauty_box/イメージマート)

 極めつきは、松井一実・広島市長が、教育勅語を引用した資料を、新人職員研修で12年間にわたって使い続けてきたこと。非常事態時には、「臣民」である国民は、天皇が統治する国のために力を尽くすべきという内容の教育勅語は、明治天皇が臣民に対し、天皇と国家への忠誠を説いたもので、ゆえに国民主権の日本国憲法下には相容れない内容であるとして国会で失効決議がされている。