やねだん故郷創世塾で熱弁を振るう豊重哲郎氏

*本稿は、筆者による『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(幻冬舎)、『現場発!ニッポン再興』(晶文社)の内容に新情報を加え、再構成したものです。

 これまで2回にわたって、鹿児島県鹿屋市にある人口300人の柳谷地区、通称「やねだん」の地域再生の取り組みを紹介してきた。日本の各地にある、過疎に悩む地域だった「やねだん」の再生は、自治公民館長・豊重哲郎のリーダーシップによるところが大きい。その豊重は、これまでの経験で得たノウハウ・哲学を他地域にも伝えるべく、リーダー塾を開講している。

(前編)住民300人の集落が甦る、公民館長が起こした奇跡
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59137
(中編)焼酎作りで甦った限界集落、儲けた金の痛快な使い方
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59201

「やねだん」から学ぼうと全国から生徒が殺到する故郷創世塾

 私が訪れた公民館は、異様なまでの熱気に包まれていた。揃いの黄色い法被を身にまとい、講義を受ける男女がいる。みな一様に真剣な表情だ。彼らは、北海道から九州までの自治体や社会福祉法人の職員らだ。20代や30代の若手が中心で、総勢48人。最年長は69歳だった。これは、「故郷創世塾」だ。

 豊重は塾長だ。独特の熱気を放つ。時には大声をあげる。講義をしながら、突然塾生の名前を呼ぶ。眠い目を凝らしていた塾生ははっと目を覚ます。そこに豊重は近づき、肩に手をやったりする。驚くべきことに、豊重はこの塾の最初の日に、48人の塾生の名前と出身、仕事内容などをすぐに覚える。あっという間にファミリーのようになっているのだ。

「俺は塾生の名前を命がけで覚える」

 この塾はとにかくハードだ。睡眠時間は平均2時間。午前4時ごろでも豊重の声は響く。まさに不眠不休の状態だ。豊重の主張を聞きながら、塾生の中には、感極まって涙を流す人もいる。

 故郷創世塾の講師陣は豊重以外にも、地域活性化センターの理事長の椎川忍、元NHKアナウンサーの森吉弘らが名を連ねている。塾生は、公民館での講義だけでなく、集落を歩いて住民たちと語り合う。集落のお年寄り、リーダー、移住している芸術家らにインタビューするのだ。宿泊は修築された空き家だ。講師料や宿泊代、食事代などの参加費のほか、交通費は各自が追加でそれぞれ負担する。

 塾生たちは、故郷創世塾を終えた後、地域に戻って、地域の再生に汗を流す。

「こんな経験をしたのは初めて。研修を終えて、役所に戻ったら、もっと現場に飛び出す公務員になりたい」と目を輝かせる塾生たち。