集落の人と一緒に収穫したトウガラシの前で。右から2番目の人物が豊重哲郎氏(筆者撮影)

*本稿は、筆者による『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(幻冬舎)、『現場発!ニッポン再興』(晶文社)の内容に新情報を加え、再構成したものです。

 前回は、鹿児島県鹿屋市にある人口300人の柳谷地区、通称「やねだん」が、住民参加のサツマイモづくりを始め、自主財源と住民の一体化を手に入れたことを紹介した。これらの取り組みは、自治公民館長・豊重哲郎の奮闘から始まったものだったが、ではサツマイモづくりで得た自主財源を、「やねだん」はどのように使ったのだろうか。今回はそこから触れてみよう。

(前回記事)住民300人の集落が甦る、公民館長が起こした奇跡
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59137

育てたサツマイモでオリジナル焼酎

 豊重はその後も「弾」を撃ち続けた。サツマイモは「やねだん」を窮地から救った。高校生が汗を流して収穫し、順調に売り上げを伸ばした。しかし、その後しばらくたって、海外から安いサツマイモが入り、収益が悪化した。

 豊重は安定収入が見込める加工食品が重要だと考えた。頭に浮かんだのが、オリジナル焼酎の製造だ。「やねだん」で焼酎用のサツマイモをつくり、プライベートブランドとして売り出す作戦だ。地元の酒造メーカーは了承してくれた。この焼酎は大化けする。

 きっかけをつくったのは、ホテルチェーンなどを展開している韓国の実業家、キム・ギファンだ。キムはたまたま滞在先のホテルのテレビで「やねだん」を紹介したVTRを見た。

 助金に頼らない自主自立の精神にすっかり魅入った。韓国でも、過疎化に悩まされており、「やねだん」の取り組みに驚いたのだ。そして、現場を実際見てみたいと思って、「やねだん」をお忍びで訪れた。

 その後、キムはこの焼酎を韓国に輸入することを決断した。そして、日本風の居酒屋『やねだん』をオープンしたのだ。「やねだん」から1000本単位で焼酎を輸入し、店で販売した。