傷ついた営業マンのプライド

 異なる2つの職場でモノを売っていたCさんの話は、「仕事とは何か」について考えさせられる。

 Cさんにとって家電量販店は、自分のスキルを磨き、試す場だった。その結果、もたらされたものは昇進や昇給だけではない。顧客の「ありがとう」「いいものが買えてよかった」という喜びを共有できたことに、Cさんはやりがいを感じていた。

 一方、酒と女で得意先に恩を売って得た契約は、営業マンのスキルや人間性が評価されたものではない。だから得意先がキャバクラを喜んでも、Cさんには虚しさしか残らなかったのだろう。

 つまり、この営業手法はCさんの「営業マンとしてのプライド」を傷付けたのだと思う。

 もちろん、個人客を相手にする家電量販店より、建設業の利益のほうがはるかに高額だ。金額だけ見れば、接待は価値のある仕事になる。しかし「自分は億を稼いでいる」と考えても、Cさんに達成感はなかった。

 やりがいを感じる仕事ほど、給料が低く、労働条件も悪い。この残念な状況は、働く人の健全なやる気を奪っている。

 Cさんは「もう一度転職したい」とため息をつく。しかし二人の子どももまだ小さいし、販売の仕事に戻るのは難しいと感じている。

「年末年始は忘年会、新年会という名の接待の毎日です。だから、年末年始はほとんど出社しません。昼間に仮眠を取って、夕方に得意先に出かけます」

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若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。