政府・自民党との関係が良好であることが背景にあってか、同社と関連会社は地方自治体との関係もすこぶるいい。地域活性化などを目指す多数の自治体が同社と連携協定などを結んでいる。愛知県大府市、和歌山県、三重県鈴鹿市、兵庫県養父市、岐阜県山県市……。

 松本の性加害問題をなんとか鎮静化させないと、各自治体の議会でも議題になりかねない。やはり松本は表舞台から消えるしかなかったのだ。

旧ジャニーズ問題を機に一変したスポンサーのスタンス

 テレビ番組への出演も不可能だった。疑惑が性加害であるため、番組のスポンサーが拒絶反応を起こしている。故・ジャニー喜多川氏の件があったことから、企業は性加害問題と人権問題には以前にも増して敏感になっている。

 12月月27日に松本の性加害疑惑の第1弾を載せた文春が発売された途端、スポンサーは動いた。この段階では違法行為の確たる根拠が示されておらず、さらに吉本興業が「当該事実は一切ない」と声明したが、それでも企業は事態を重く見た。

 2日後の同12月29日に放送されたフジテレビ『人志松本の酒のツマミになる話・2時間スペシャルin福岡』ではアサヒビール、サントリー、アコムの3社がスポンサーとしての提供社名の表示を取り止めた。CМだけ流した。

 アサヒビールは「人権に関する基本方針に照らした対応」などと松山一雄社長が説明した。これに前出の大手芸能プロ幹部は「隠し子騒動や不倫騒動を起こしたタレントもいたが、こんなに早くスポンサーが行動した例はない」と驚いた。ジャニー氏の件によってスポンサーの尺度が変わったのだ。

 1月4日放送の日本テレビ(制作・読売テレビ)『ダウンタウンDX』では提供社名の表示すらなくなってしまった。CМの一部もACジャパンに差し替えられた。

 自前のCМをACに替えても企業はスポンサー料を支払わなくてはならない。それでも自前のCМを流したくなかったのだから、よほど松本と関連付けられるのが嫌だったわけだ。

 1月10日に発売された文春(同18日号)には「松本人志『SEX上納システム』3人の女性が新証言《恐怖のスイートルームは大阪、福岡でも》」と題された第2弾が載った。これにより、企業側が松本を避ける流れは決定的になった。松本のレギュラー番組は在京キー局分だけで6つあるが、活動を継続していたら、全てのスポンサーが降りる可能性が濃厚だった。

 物事に「もし」は禁物だが、万博とジャニー氏の件がなかったら、松本の処遇は変わっただろう。

【高堀冬彦】
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

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