2024年5月25日、2023-24WEリーグ最終節、連覇した三菱重工浦和レッズレディース 写真/YUTAKA/アフロスポーツ

(歴史ライター:西股 総生)

VARに煩わされないのも楽しい

 筆者の見るところ、サッカーファンには2種類の人間がいる。一つは、強いチームのファンを称したり、自分の知識や「見る目」をひけらかしてマウントを取りたいタイプの人。もう一つは、目の前のサッカーを純粋に(率直に)楽しんで観る人だ。

 もし、あなたが後者タイプのサッカーファンか、ないしはサッカーに関心はあるが、前者はうざいと思っているのなら、ぜひWEリーグ、つまり日本女子プロサッカーリーグの観戦をお薦めする。WEリーグとは通称で、現在は12クラブが加盟しており、今期(2024-25シーズン)のリーグ本戦は9月14日(土)に開幕している。

 念のため断っておくが、筆者はWEリーグの関係者でも回し者でもない。一介のサッカー好き歴史ライターにすぎない。その筆者が、あえてお薦めしたいのだ。WEリーグ観戦では「サッカー本来の面白さ」が味わえるぞ、と。

 もちろん、男子サッカーに比べれば、スピードやプレー強度(インテンシティ)で劣るのは否めない。でも、それが何だというのだろう。

 サッカーとは本来、ボールを扱う技術をきそう競技ではなかったか。サッカー好きの芸能人の中にも、フィジカルモンスター的な選手が好き、と公言する御仁がいるが、はて? そんなにフィジカルモンスターが好きなら、サッカーよりウェイトリフティングでも見ればよいのに、と思ってしまう。

 WEリーグを観ていると、つくづく感じるのだ。男子サッカーが、スピードや強度を求めるあまり失ってしまった、球技としての美しさや華麗さが、ここにはある、と。男子サッカーが圧殺してしまった、ファンタジスタのプレーにワクワクすることもできる。

日テレ・東京ヴェルディベレーザに所属する眞城美春(左) 将来を期待される選手の一人 写真は2024年5月16日、AFC U17女子アジアカップ準決勝 写真/新華社/アフロ

 もちろん、現在の女子サッカーもスピードや球際の激しさは重視しているが、男子サッカーほど暴力的ではない。相手選手を後ろから羽交い締めにして引きずり倒してもファールにならないが、それを振りほどこうとして肘が入るとカードが出る、などという馬鹿げた光景を見なくて済むのだ。

 現状、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)に煩わされないのも楽しい。WEリーグを見ていると、VARがサッカーの何を壊してしまったのかが、よくわかる。少なくともVARの是非を考える、よい材料にはなる。VARの是非を論じる偉い人たちはお金をもらってサッカーを見る立場だが、われわれはジャッジの正しさを見守るために、お金を出してスタジアムに足を運ぶわけではないのだ。

 とはいえ、筆者がWEリーグについて残念に感じることがあるのも事実だ。残念なことの一つは、応援がおっさんくさいこと。応援グループの中には女性のコールリーダーもいるのだが、応援スタイルそのものは総じてJリーグのそれをスライドさせた感じで、男性中心だ。もっと、女性中心の斬新な応援スタイルがあってもよいのに、と思う。

 もう一つは、観客動員力の弱さだ。昨期(2023-24)の平均入場者数は1723人。2023年のJ3の平均3003人すら大きく下回っており、プロリーグとして成功しているとはいえない成績だ。どうすれば観客数が増えるのか、よりも、観客数が増えない原因はどこにあるのかを、真剣に考える必要があるように愚考する。

 などと記事を書いている最中に、WEリーグの高田春奈チェアが退任し、後任はJリーグの野々村芳和チェアマンが兼任、副理事長には日本サッカー協会の宮本恒靖会長が就く、というニュースが入ってきた。高田理事長の退任は任期満了に伴うものとのことだが、観客動員数が伸びないことで、再任の芽が摘まれたようにも感じる。

 野々村氏には、まずもって集客向上のための改革が求められるだろう。ただ、筆者は個人的には、野々村氏がJリーグの価値を高めることに成功しているとは思っていない。上から目線、男子目線の「改革」によってWEリーグ本来の魅力が失われないことを、切に願うものである。