JR東日本の水素ハイブリッド電車、FV-E991系HYBARIJR東日本の水素ハイブリッド電車、FV-E991系HYBARI(筆者撮影、以下も)
  • JR東日本が、水素ハイブリッド電車の実用化を目指している。これは水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を併用するハイブリッド電車だ。
  • 鉄道事業者にとっても脱炭素は重要な経営課題。JR各社の中でも最も営業エリアが広いJR東日本はディーゼル燃料(軽油)で走る気動車の置き換えに、複数のタイプの車両を開発している。
  • 航続距離や車両の重さなど、実用化に向けた課題は残っているが、2050年のCO2排出“実質ゼロ”の達成には避けては通れない道だ。

(岸田 法眼:レイルウェイ・ライター)

2030年代の実用化を目指す

 2023年11月8〜10日に幕張メッセ(千葉市)で第8回鉄道技術展が開かれた。そこでJR東日本は、水素ハイブリッド電車FV-E991系HYBARI(ひばり)の模型を展示し、“未来の電車”を大いにアピールした。同社は、このFV-E991系HYBARIをジャパンモビリティショー2023(旧東京モーターショー、10月28日〜11月5日に一般公開)でも展示しており、力が入っていることがわかる。

 地球温暖化対策として、二酸化炭素(CO2)の排出削減が課題となる中、鉄道事業者も脱炭素への取り組みを進めている。JR東日本は2020年5月12日に発表した「ゼロカーボン・チャレンジ2050」で、「2050年度の二酸化炭素排出量を“実質ゼロ”」を長期目標に設定している。

 脱炭素には様々な取り組みが必要だが、非電化区間で主にディーゼル燃料で走る気動車の電車化も必要不可欠と言えよう。JR各社の中でも最も営業エリアが広いJR東日本は、2022年2月に日本初の水素ハイブリッド電車、FV-E991系HYBARIを公開。2030年代の実用化を目指す。成功すれば、日本全国に波及する可能性を秘めている。

 そのFV-E991系HYBARIとはどのようなものなのか?

JR東日本、日立製作所、トヨタ自動車が共同開発

 水素ハイブリッド電車FV-E991系HYBARIのFVは「Fuel cell Vehicle」、車両愛称のHYBARIは「Hydrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation」の頭文字から取った。

FV-E991系HYBARIの模型FV-E991系HYBARIの模型

 この車両はJR東日本、日立製作所、トヨタ自動車が共同で開発に取り組んだ。JR東日本は長年培った鉄道車両の設計と製造の技術、日立製作所はJR東日本と共同で開発した鉄道用ハイブリッド駆動システムの技術、トヨタ自動車は燃料電池の技術を担当。水素を燃料とする燃料電池と蓄電池の2つを電源とするハイブリッドシステムを搭載した。特に燃料電池は水素を燃料にするので、走行中に二酸化炭素を発生させず、生成されるのは水のみである。

 一般的な電車は屋根の上にパンタグラフを搭載し、架線から集電することで走行する。一方、FV-E991系HYBARIは、パンタグラフのような集電装置がない(注:パンタグラフを搭載するスペースは確保している)。